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【書評】

一○五歳、死ねないのも困るのよ 篠田桃紅 著

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◆心眼で探る「奥の奥」

[評者]青木奈緒=エッセイスト

 今も第一線で制作をつづけていらっしゃる美術家、篠田桃紅さんは数えの御年一〇五歳。この年代の方は満年齢ではなく、数え年に実感をお持ちなのだ。背骨を圧迫骨折なさってからは歩行に杖(つえ)が必要となり、老いとともに身体はいささか不自由となった。記憶力や気力は衰えても、精神はますます成熟して、思いも一段と深まるという。目に見えるものにはこだわらなくなり、「表現されていない、奥の奥の奥」を、心眼をもって探ろうとなさっている。

 なんと見事な老いの境地だろう。重ねた歳(とし)に自負を持ち、人生につきものの悩みや苦しみ、妬(ねた)みといった感情からは解き放たれて、自分がどう自覚するかで幸福な一生は決まる、「風はみんなに同じように吹いている」と説く。

 こんな一◯五歳なら誰もがなりたいと願うだろう。だが、篠田さんは人の真似(まね)をするのは横着であり、あくまで自分がどう生きるかを手探りで追い求めている。こちらに同意を求めるのではなく、困っているときに読んだからといって、救いの手を差し伸べてくれるわけでもない。ただ、自分はこんな風(ふう)に思い、こんな風に日々送っていると、淡々とつづる。

 いつからでも決して遅いということはない。人生の大先輩から、いかに生きるべきかの指南書である。本来の自分にすっきりと立ち返る勇気が湧いてくる。

(幻冬舎・1188円)

<しのだ・とうこう> 1913年生まれ。美術家。著書『人生は一本の線』など。

◆もう1冊

 下重暁子著『もう人と同じ生き方をしなくていい』(海竜社)。過去の著作から集めた八十歳を超えた著者の人生観。

 

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