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【書評】

僕は沖縄を取り戻したい 異色の外交官・千葉一夫 宮川徹志 著

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◆「占領の島」返還に懸ける

[評者]渡瀬夏彦=ノンフィクションライター

 いわゆる「沖縄返還交渉」で中心的な役割を果たした千葉一夫・外務省北米第一課長(当時)について、これまであまり詳しく報じられることはなかった。本書は、関係者の証言と文献発掘によって、その功績と人生の軌跡を追ったノンフィクションの労作だ。

 が、それにしても、タイトルには驚きと違和感を禁じえなかった。沖縄の「祖国復帰」に尽力した、どれほど有能で気骨ある外交官を描いた作品でも、やはりこのタイトル(当然作品の本質が表れる)には問題がある。

 当時も今も続く、不遜な日本人の典型的な沖縄観(=沖縄を意のままに利用できるものと捉える植民地支配者的意思)の表れとして、強い憤りを沖縄県民の間に呼び起こしかねない。近年「琉球民族の自己決定権」について自覚的な識者・市民は確実に増えつつあるし、辺野古新基地建設問題と真摯(しんし)に向き合えば向き合うほど、「ここまで沖縄の民意を無視し踏みつけてくる日本という国に復帰したのは間違いだった」との思いを強くせざるを得ないウチナーンチュ(沖縄の人)も多い。

 差別的に沖縄にだけ押し付けられた「核配備・再配備」密約の内実は、九月に放送されたNHKスペシャルのドキュメンタリー「沖縄と核」などで一層明らかにされている。つまり「返還」の交渉の過程やそれ以前から用意されていたのは、現在に通ずる「沖縄の苦境」そのものではなかったか、という思いが県民の間に膨らみつつある。

 千葉一夫は本書において、他の外交官・政府関係者の誰より「沖縄思い」の人物として描かれている。それだけに、もしこの人物がいなかったらいったいどれだけひどい条件で「沖縄返還」がなされていたことか、と一層深い悲しみと憤りに、移住者県民としての評者でさえさいなまれてしまう。戦後七十二年、復帰後四十五年を経てもなお、沖縄は、米軍と日本政府が勝手気ままに使える「占領の島」である。

(岩波書店・2592円)

<みやがわ・てつじ> 1970年生まれ。 NHKチーフ・ディレクター。

◆もう1冊

 阿部岳著『ルポ沖縄 国家の暴力』(朝日新聞出版)。米軍ヘリパッド建設現場で市民の抗議を排除する政府の暴力。沖縄の今を映す。

 

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