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【書評】

ポストキャピタリズム ポール・メイソン 著

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◆危機を脱する能力の限界

[評者]廣瀬弘毅=福井県立大准教授

 いざなぎ景気を抜いて、戦後二番目の景気拡大期間が続いているという。だが、実感を伴わない好景気の今が、高度成長期よりも良い、と誰が言えよう。ひょっとすると今の資本主義体制は終わってしまうのではないか。本書は、その不安に対する一つの回答だ。

 ネット上のウィキペディアやリナックスなど、ボランタリーに人々が参加して作り上げる「ピアプロダクション」等、非市場領域の新たな動きを根拠に、これまでとは原理が大きく異なる「ポスト資本主義」社会への移行の必然性を提示してみせる。だが、本書の真骨頂は、過去から現在に至る資本主義の来し方の分析にあるのだろう。

 資本主義は適応するシステムである。それが終わるというのであれば、今起きていることに注目するだけでは不十分だ。著者は、資本主義の勃興以降の歴史を振り返り、ロシア革命による西欧先進国の動揺や高度成長期の終焉(しゅうえん)、そしてリーマン・ショック等を資本主義がどう切り抜けてきたのかを、適応過程としてスケッチしてみせる。そして、とうとう適応能力の限界に達したと結論づけるのである。

 本書のもう一つの特徴は、労働価値説をはじめ、マルクスの理論を援用している点である。たしかに、マルクス経済学にとって危機の分析はお手の物だ。体制内の矛盾から危機を内生的に説明できる強みがある。また労働と賃金の関係が見えづらい今だからこそ、労働価値説が新たな光を当てられる。

 他方、主流派の経済学はと言えば、市場の自己修正力を信じるのみで、危機自体は体制の外部要因としてしか捉えられず、有効な分析ができない。それどころか、昨今の新自由主義に至っては、労働者を「分断」して格差を広げ、一部富裕層の存在を正当化したため、危機的状況を拡大したと言う。

 こうした鋭い告発は、主流派の経済学者からは決して出てこない。テレビの世界で、現場に触れるジャーナリストだからこそ書けたのだろう。

(佐々とも訳、東洋経済新報社・2376円)

<Paul Mason> 英国のジャーナリスト兼ブロードキャスター。

◆もう1冊

 D・ハーヴェイ著『資本主義の終焉』(大屋定晴ほか訳・作品社)。資本をめぐる十七の矛盾を解説し、グローバル経済の未来を考察。

 

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