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【書評】

震美術論 椹木野衣 著

写真

◆自然への畏敬を軸に

[評者]五十嵐太郎=建築批評家

 震える大地において、いかに美術が可能か。リスボンの地震、インドネシアの津波、ベネチアやブリスベンの水害など、自然災害は各国で発生しているが、日本は世界的に見ても稀(まれ)な災害多発列島である。蓄積の歴史によって成立する西洋の美術とは違い、都市が一瞬のうちに破壊されたり、安定した美術館さえままならない日本の美術は、自然への畏敬と恐れがすり込まれているのではないかと、著者は問いを立てる。

 3・11の衝撃を受けて執筆された本書は日本の地質学的な特性を確認しつつ、被災地での見聞をもとに科学的な手法ではとらえられない伝説や神話的な想像力の重要性を唱え、災害に触発されたアーティストや建築家(赤瀬川原平、磯崎新、畠山直哉、村上隆など)を考察する。さらに分析は直接的には災害と関係がない作家にも及び、表層を操作する彫刻としての高山登や、慰霊と鎮魂としての絵を描いた流浪の画家、藤田嗣治らに対して、日本特有の新しい視点をもたらす。

 つまり美術批評家の著者は、社会の前提が揺らいだ現在から美術史を書き換えていく。本書は、音楽と美術の結婚という領野を切り開いた前著『後美術論』に続き、従来の美術史とはまったく違う枠組みを提示したシン美術論である。これまでの彼の思考を更新した集大成的な本が、3・11後に二冊そろったと言える。

(美術出版社・4536円)

<さわらぎ・のい> 1962年生まれ。美術批評家。著書『反アート入門』など。

◆もう1冊 

 畠山直哉・大竹昭子著『出来事と写真』(赤々舎)。震災で故郷が被災した写真家の畠山と、作家の大竹による対話。

 

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