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【書評】

ハリウッド 「赤狩り」との闘い 吉村英夫 著

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◆機知、機略の映画作り

[評者]小野民樹=書籍編集者

 ハリウッドに「赤狩り」の疑心暗鬼と恐怖心が蔓延(まんえん)している一九五二年猛暑の九月、「ライムライト」を終えたチャップリンは、四十三年間住んだアメリカを追われるように去り、ウィリアム・ワイラーは、ローマで一万人のヤジ馬をかきわけつつ、新人オードリー・ヘップバーン相手にリテイクを繰り返していた。

 二人はアメリカと民主主義を愛するリベラルだが、非米活動委員会への出頭強制が迫っていたのだ。アメリカに愛想を尽かしたチャップリンは以後二十年間帰国することはなく、「赤狩り」を皮肉った「ニューヨークの王様」をつくる。

 ワイラーは、共産主義者として追放されたダルトン・トランボの脚本をマクレラン・ハンター名で極秘に採用、アメリカの影響の及ばないイタリアで危険を冒して非転向のデモクラットとともに、珠玉のラブコメディ「ローマの休日」をつくりあげた。映画監督としてのワイラーが自らの思想的再生をかけた機知、機略の数々が本書の読みどころである。

 著者自認の「主観的叙述」は、随所に張り扇の音を響かせつつ、やや乱暴な引用や脱線逸脱もおそれず、内外の多くのエピソードを巧みにおりまぜ、アメリカ民主主義の汚辱の時代を描き、現代日本における「民主主義擁護、リベラルなデモクラットの復権」には人間信頼の不断の努力が必要であることを訴えている。

 (大月書店・1944円)

 <よしむら・ひでお> 映画評論家。著書『山田洋次と寅さんの世界』など。

◆もう1冊 

 J・ワーナー著『ダルトン・トランボ』(梓澤登訳・七つ森書館)。赤狩りで服役した脚本家の不屈の人生をたどる。

 

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