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【書評】

読みくらべ世界民話考 野中涼 著

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◆人間の経験 連想誘う

[評者]宮川健郎=児童文学研究者

 全部で二十三の章(主題)で構成。最初の章「素性の知れない者」ではまず、「鶴女房」の話が語られる。夕方、美しい女が炭焼きの男の家の戸口にあらわれる。「旅の者です。…一晩どうか泊めてください」。翌朝、女は暗いうちに起きて、食事をととのえ、そして、両手をついて言う。「どうか私を女房にしてください」。女は、いったい、だれか。

 つぎは「妖精の嫁」、ノルウェーの民話だ。山の上の家で、農夫は美しい娘と出会う。おじいさんとおばあさんは「あなたに娘と結婚してもらいたい」と言い出す。そのまたつぎは、イギリスの「妖精の騎士」。北国から突然、立派な騎士がやってきて、館から娘を連れ出す。

 三つの話をふまえた解説で、著者は、「結婚は他人だった者同士がにわかに誰よりも密接な身内になる」と述べる。

 どの章でも、三つの話が語られる。はじめの話から連想して、つぎの話、つぎの話と語るのは著者なのに、私自身のなかで連想が起こるように思うのはどうしてか。日本の話以外は知らないものばかりなのに、よく知っている話のようにも思えるのだ。話を一つ一つ読んでいくたびに、あとがきで言う「人間が何世紀にもわたって経験し獲得し蓄積してきた人生についての豊富な集合的認識」の扉が開いていく。扉のむこうに眠っているのは、民族を越えた私たちの共通の宝だ。

(松柏社・4104円)

<のなか・りょう> 1932年生まれ。早稲田大名誉教授。著書『文学の用語』など。

◆もう1冊

 吉田敦彦編『世界の神話 101』(新書館)。古代オリエントやギリシア、ローマ、中国、日本など各地の神話を紹介。

 

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