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【書評】

アメリカの汚名 第二次世界大戦下の日系人強制収容所 リチャード・リーヴス 著

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◆偏見が蹴散らす立憲主義

[評者]横山良=神戸大名誉教授

 一九四一年十二月七日(ハワイ時間)、日本軍がハワイ真珠湾を急襲、翌日アメリカ大統領ローズヴェルトは連邦議会でこれを「汚名(infamy)」と呼び、米国は日本に宣戦布告、ここに太平洋戦争が始まった。日米開戦後、大統領令によりアメリカ西海岸に住むおよそ十二万人の日系人(その三分の二は米国市民権をもつ米国生まれ)がアメリカ西部の荒地に急造された十箇所の強制収容所に送られた。

 本書は、その経緯、そこでの収容者の生活と意識、アメリカへの忠誠をめぐる世代間・党派間の対立、兵役に向き合う若者の苦悩、日系部隊の命運、日系人と強制収容所に注がれるアメリカ社会の眼差(まなざ)しなどを、インタビュー、発言、手紙、日記、回想録などから丹念にすくい上げた当事者の生の声を通して物語る。全体として語られる内容も、使われている資料も決して新しいとはいえないが、ケネディ、ニクソン、レーガンの伝記作家として名声を勝ちえた著者の筆力と義憤が物語に新しい命を吹き込んでいる。

 なぜ今、この物語を語りなおさねばならないのか? 言うまでもなく、アメリカ市民は憲法によって守られている(立憲主義)。しかし、市民権を持つ日系人が、「ジャップはジャップだ!」と喚(わめ)いて偏見に満ちたフェイクニュースを撒(ま)き散らすマスコミや政治家、「憲法などは紙くずだ」と言ってはばからない軍幹部、そしてそれらに煽(あお)られた地域住民によって強制収容所へと追い立てられた。偏見が憲法に勝ったのである。著者は今、同じ事態がムスリムやヒスパニックの人々に起ころうとしているとして、警告の意味を込めて本書を書いたという。不幸にして予感は的中しそうである。

 一方で著者は、歴史から学ぶアメリカ社会の「復元力」に期待を託している。しかし、兵士として血を流すことが一番確かな市民の証明である「兵士の共和国」アメリカにおいては、立憲主義の復元力は常に危うい。

(園部哲訳、白水社・3780円)

<Richard Reeves> 1936年生まれ。米国のジャーナリスト・コラムニスト。

◆もう1冊

 東栄一郎著『日系アメリカ移民 二つの帝国のはざまで』(飯野正子監訳・明石書店)。複雑な問題を抱えた日系移民の歩みをたどる。

 

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