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【書評】

「幸福な日本」の経済学 石見徹 著

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◆現状打開は長い目で

[評者]根井雅弘=京都大教授

 近年わが国は「経済格差」「少子高齢化」「財政破綻の危険」「グローバル化への乗り遅れ」など多くの問題を抱えてきたが、各種の調査をみても、日本人が極端に「不幸」になったと感じていないのはどういうことなのか。この問題は、現在の行き詰まり状態を打開していくうえで重要な手がかりを与えてくれる。

 例えば二十一世紀初頭、小泉政権の構造改革路線が進められたとき、市場原理主義や自己責任論などが論壇で力をもっていた。その結果、経済格差は拡大しても成長は戻らなかったではないかと批判するのはたやすいが、思想の影響はあとあとまで残った。その証拠に、最近の調査では「貧困」の原因を「怠惰」に求める人が増えているという。

 しかし著者は、少子高齢化などは数十年前から予想されており、「長期」を見据えて「幸福な社会」の実現のための対策を講じるべきだったのだと言いたいに違いない。福祉の充実のための財源としての消費税増税、グローバル化の行き過ぎを抑える金融取引税の導入など、いくらでも政策パッケージはあり得たのだ。

 それがほとんど進まなかったのは、政治ばかりでなく私たち有権者の責任でもあるが、著者は読者が「冷静な頭脳と温かい心」をもって長期的に問題を考えるようになるのを期待しているのだろう。その意図は本書から十分伝わるはずだ。

(講談社選書メチエ・1674円)

<いわみ・とおる> 東京大名誉教授。著書『グローバル資本主義を考える』など。

◆もう1冊 

 C・グラハム著『幸福の経済学』(多田洋介訳・日本経済新聞出版社)。何が人々に幸福感をもたらすのかを考察。

 

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