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【書評】

銀杏手ならい 西條奈加 著

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◆寺子屋に二十八の瞳

[評者]清原康正=文芸評論家

 江戸時代の中期以降、庶民教育機関としての寺子屋が数多く開かれていった。その数は、幕末期までに全国で一万二千を超し、江戸には千二百以上もあったという。本書はこうした庶民教育に携わる女性を主人公とする七話からなる連作集で、子供たちと共に成長していく一年余の様子が描き出されていく。

 両親が開いていた手習所「銀杏堂(ぎんなんどう)」を引き継いだ女師匠の萌(もえ)は二十四歳。御家人の家に嫁いだものの子ができず、三年前に離縁された。出戻り女師匠と侮られながらも、個性豊かな子供たちに一対一で向き合い、寄り添ってきた。だが、その思いが伝わらずに、行き違いが生じて悩む日々が続いていた。この萌を軸に、江戸では寺子屋を手習所、子供たちを筆子(ふでこ)と称したこと、当時の育児書や手習所で使う教材のことなど、江戸期の庶民教育のありようが活写されていく。

 萌は「銀杏堂」の門前に捨てられていた赤ん坊であった。そんな萌が門前に捨てられていた女の赤子を引き取って育てることを決心する。江戸期の捨て子についての決め事などを背景に、このことで萌が変わっていくさまも描かれている。

 受け持ちの十四人の筆子たち、「二十四の瞳」ならぬ「二十八の瞳」と時に格闘しつつも終始抱きしめていく萌の熱い思いを通して、現代の教育について改めて考えさせる問題作である。

(祥伝社・1620円)

<さいじょう・なか> 1964年生まれ。作家。著書『涅槃(ねはん)の雪』『六花落々(りっかふるふる)』など。

◆もう1冊 

 西條奈加著『まるまるの毬(いが)』(講談社文庫)。一家三代で営む菓子店を舞台に、人情の温かさを描いた時代小説。

 

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