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【書評】

バテレンの世紀 渡辺京二 著

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◆大航海時代、漕ぎ出す日本

[評者]加藤宗哉=作家

 十六、七世紀のキリシタン時代を描くことの多かった作家・遠藤周作は、「織田信長に関心が湧くのは彼が最初に西洋と遭遇した日本人だから」とよく口にした。もちろんそこには、自身が戦後初のフランスへの留学生として西洋とぶつかった体験も重なっているのだが、その問題が後の遠藤文学の核となったように、日本もまた信長の時代に西洋と遭遇したことで世界史のなかでの役割を運命づけられたのだと、あらためて本書によって確認した。

 「バテレンの世紀」とは、ポルトガル人の種子島漂着(一五四三年)から鎖国令によるポルトガル船の来航禁止(一六三九年)までのおよそ百年だが、この通史を著者は詳述する。詳しいがゆえに説得力をもち、意外な側面をも浮かび上がらせて飽きさせない。このキリシタン時代、「日本人は、西洋人に対して何ら劣等感も先入見も持っていなかった」「日本は銀輸出を通じて世界経済にインパクトを与えた」、そして「日本人は大航海時代というグローバルなブームに能動的に参加したプレーヤーのひとり」であった。

 とくに豊臣秀吉によるバテレン追放令に関するくだりは興味ぶかい。追放令にもかかわらず入信者が四万人にのぼった事実や、「いないふり」をしながらも活動を続けたイエズス会士の様子、またキリシタン風ファッションに当時の上流階層が染まったこと等々。

 しかし家康の十七世紀になり、ポルトガル一色だった状況にスペイン系修道会が参入してやがて全国禁教令が出されると、こんどは“布教”ではなく“交易”だけのオランダ、イギリスが登場する。じつは家康による「朱印状三五六通」という数字が示す通り、日本は海外進出の全盛時代を迎えていたのである。さらに本書は資料の少ない天草の蜂起、原城の戦いにも触れ、日本特有の隠れキリシタンを生んだ事情さえ想起させる。小説と同じに歴史も細部の面白さだというが、まさにこのことを痛感させてくれる通史である。

(新潮社・3456円)

<わたなべ・きょうじ> 1930年生まれ。日本近代史家。著書『黒船前夜』など。

◆もう1冊 

 帚木蓬生(ははきぎほうせい)著『守教』(上)(下)(新潮社)。厳しい弾圧に耐えながら、開国まで信仰を守り続けた九州のキリシタンの村を描く歴史長篇。

 

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