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【書評】

ごまかさない仏教 佐々木閑・宮崎哲弥 著

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◆何が分からないのか

[評者]末木文美士(ふみひこ)=仏教学者

 近年、原始仏教やテーラワーダ仏教に関する研究が急速に進み、従来の常識が覆されるようになっている。本書は、評論家の宮崎が最新の研究動向を踏まえながら、インド初期仏教の基本的な問題に関して鋭く突っ込み、それに対して専門研究者の佐々木が応じていく形で、仏教とは何かをその源流から捉え直していく。対談ではあるが放談ではなく、仏・法・僧の体系に則(のっと)って一つ一つの問題を丁寧に取り上げて論じている。

 その過程で、最初期の仏典『スッタニパータ』の古層の認定や大乗の哲学者竜樹の評価など、重要な問題に関する二人の理解の相違も明瞭になる。宮崎がブッダの仏教と竜樹の「空(くう)」の哲学の一貫性を主張して明快なのに対して、佐々木は両者の別を説き、慎重に仏教の歴史的展開を読み直そうとしている。

 輪廻(りんね)をどう理解するか、殺人は肯定されるかなど、今日の仏教の活動にも直接かかわる大問題が、じつはそれほど簡単に答えが出せるわけではないことも、明らかになる。最後に触れられた大乗仏教の成立問題も、まだ定説がないホットな論題である。何が分かっていて、何が分からないのか、それを曖昧に「ごまかさない」ところに本書の価値がある。仏教を多少勉強して、さまざまな疑問に突き当たり、もう一歩先に進みたいと願う人のための、刺激的な中級入門書である。

(新潮選書・1512円)

<ささき・しずか> 花園大教授、仏教学者。みやざき・てつや 評論家。

◆もう1冊

 末木文美士『思想としての近代仏教』(中公選書)。近代を代表する宗教者の清沢満之(きよざわまんし)らの思想から仏教を問い直す。

 

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