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【書評】

九十八歳になった私 橋本治 著

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◆ガタガタの未来透視

[評者]長山靖生=文芸評論家

 気が付けばそろそろ高齢者域という独身男の、さらに三十年後を大胆かつシビアに予測した、笑って身につまされる衝撃(?)の<近未来空想科学私小説>。

 作家橋本治は全治のない病で免疫が低下しているといわれてからも、だらだら生き続け、二〇四六年には九十八歳の独居老人になっている。別に生に執着してはいないのに、主治医よりも長生きだ。しかし長生きして、別にいいことはない。

 疲れるし眠い。たまに外出すれば転んで骨折を疑われ、何か食べると喉に詰まりそうになる。時々訪ねて来る編集者は五十歳の「若者」で、ボランティアのバーさんは親切だが、役に立つのと迷惑なのが半々くらい。

 社会もガタガタだ。細々したテクノロジーの進歩はあるものの、日本社会自体が少子高齢化で衰退しており、おまけに「東京大震災」で多くの人々が仮設住宅で暮らしている。国会では政治家の不祥事や解散が繰り返され、政界再編もクラスの席替えみたいに頻繁だが、議員が党を移動し、新党で看板が変わるだけ。

 壊れていく社会と自分を醒(さ)めた視線で眺めながら、時々鋭いことを思いつく老人は、大変そうだがちょっと羨(うらや)ましい。

 世界の未来も自分の最期も「なるようになる」と「どうにもならない」の間にある。でも、それでもいいじゃないか、という不思議な勇気が湧いてくる。

(講談社・1728円)

<はしもと・おさむ> 1948年生まれ。小説家。著書『蝶のゆくえ』『巡礼』など。

◆もう1冊 

 橋本治著『いつまでも若いと思うなよ』(新潮新書)。貧苦、病苦とともに老年を生きる小説家の年寄り入門書。

 

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