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【書評】

初期被曝の衝撃 その被害と全貌 山田國廣 著

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◆楽観できないデータ積む

[評者]和合亮一=詩人

 福島県・南相馬で暮らしていた日々を昨日のことのように思い出すことがある。震災前の平穏な日々を。

 ある時に東京電力の方が、地元の人々に詳しく発電所のさまざまなことについて説明をなされていた。その後に質問の時間が設けられた。手が挙がり素朴な疑問の声があった。「どんな優れたモノでも必ず故障するし壊れます。原発は大丈夫なのですか」と。回答があった。「最高の技術がここに集められています。原発だけは絶対に大丈夫ですよ」と。

 本書は原子力災害がいかに始まり、巨大な災いになったのかについて、科学的・物理的な視点にて克明に綴(つづ)られている。それと同時に安全神話なるものがどのように崩れていったのかを丹念に追った、関わった人々の精神の物語でもあると感じた。事故は津波ではなく地震によって起きたという事実や、マンガ「美味しんぼ」騒動をめぐる鼻血問題への見解、トモダチ作戦により沖に浮かんでいた米空母「ロナルド・レーガン」の乗組員の被曝の現状の解説など、冒頭からの著者の鋭いまなざしをあらためて受け止めたい。

 特に初期被曝をめぐる詳細なデータを集め、決して少しも楽観視できない言及を重ねている。小児甲状腺がん多発の原因についてはっきりとした観点を示し、続いている災いの事実を大変に心配している。原発の再稼働に関わる「新・規制基準は世界一厳しい」という新しい神話が形成されようとしていることへの懸念も重ねられている。

 伝えようとする情熱が胸に迫る。歳月が経(た)ち、語らないことが大事…に向かいつつある不安を感じる日々。噤(つぐ)むのではなく声に出していかなくてはならない。著者は福島へと足を運び、除染の活動の先頭に立って動いてきた人物。常に行動の中で生の風景を見てきたからこそ「被害と全貌」を語る物差しを手にしていると直感した。「大丈夫」の神話はもう無い。あの日から私たちは、はっきりと分かっている。

(風媒社・2160円)

<やまだ・くにひろ> 京都精華大名誉教授。著書『除染は、できる』など。

◆もう1冊 

 坂昇二・前田栄作著、小出裕章監修『日本を滅ぼす原発大災害』(風媒社)。東日本大震災が起きる四年前に出た原発への警鐘の書。

 

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