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【書評】

松本清張 「隠蔽と暴露」の作家 高橋敏夫 著

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◆暗い世に求める真実

[評者]郷原宏=文芸評論家

 松本清張のブームが続いている。作品がつぎつぎにドラマ化され、新しいアンソロジーが編まれ、作家論や研究書が相次いで刊行される。これは現役の作家はもとより、歴代の文豪・大家にも見られなかった現象である。没後四半世紀たっても、清張人気はなぜ衰えず、しかも年々リニューアルされるのか。本書はその難解な謎を「隠蔽と暴露」というキーワードによって解明した、すぐれて「社会派」的な作家論である。

 著者によれば、現代は「戦後」が終わって「新しい戦前」が始まった時代である。戦争はすべてを隠蔽し密室化する。そうした暗い時代の空気が「隠蔽と暴露」の作家清張を呼びもどすのだという。

 清張は作家生活四十年の間に編著も含めて約七百五十冊の著書を刊行した。その内容は純文学、推理小説、時代小説、ノンフィクション、古代史論など多岐にわたるが、そこには一貫した方法があった。それはあらゆる「見えないもの」「隠されたもの」に対して「なぜだろう」という素朴な疑問を突きつけることによって真実を「暴露」することだった。

 著者は清張の主要作品に即して、その方法的な成果を丹念にあとづけていく。その調査は徹底していて、さながら清張の社会派ミステリーのように、有無をいわせぬ説得力がある。本書は清張研究の新しい里程標となるだろう。

(集英社新書・821円)

<たかはし・としお> 文芸評論家。著書『藤沢周平−負を生きる物語』など。

◆もう1冊

 松本清張著『半生の記』(新潮文庫)。貧しい幼少期や印刷工、広告図案の仕事など、作家デビューまでを描く自伝。

 

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