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【書評】

治安維持法と共謀罪 内田博文 著

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◆近代法逸脱の運用 恐れる

[評者]荻野富士夫=小樽商科大特任教授・日本近現代史

 昨年の共謀罪法をめぐり、治安維持法を類推して拡張解釈の危険性を論じるのは誤りであるという論が展開された。それが治安維持法の歴史と現代の警察や司法の抑圧性に目をつぶったものであることを、本書は「日本国憲法に明確に違反する諸制度が日本国憲法下の制度として存在する」とする刑事法学の観点から論破した。

 新たな知見の一つは、戦前の刑事法制のなかで治安法制への転換点として治安維持法の成立をとらえ、その運用が「罪刑法定主義」や「明確性」原則などの近代刑法を逸脱・無視していることを指摘したことである。拡張を重ねた運用の実態の違法性が、刑法学の手法によって明らかにされた。

 もう一つの知見は、治安維持法下の諸制度が「戦時の衣」から「平時の衣」に切り替えられ、「例外から原則の制度に逆転し、拡大されることになった」ことを、検察官司法の温存、捜査官の強制処分権、弁護活動の規制などの現在におよぶ問題点として、積極的に打ち出したことである。

 思想犯保護観察法の延長線上にある戦後の「犯罪の予防」と「犯罪者の更生」の流れが、現在の「既遂犯から未遂犯へ、そして予備・陰謀罪からついには共謀罪へと犯罪の軸足が移動しつつある」という指摘は、共謀罪法を考えるうえで示唆に富む。

 一方で、治安維持法の成立から二度の「改正」を思想司法に焦点を絞ってあとづけながらも、運用の主役であった特高警察にはほとんど論及されていない。国内における警察の検挙者は約七万人におよぶが、統計にのらない膨大な検挙者・検束者が存在した。特高警察に主導された行政警察的運用が猛威を振るい、「非国民」という道徳的規範で断罪されたことこそ、治安維持法の本質にほかならない。

 また、「満洲国(まんしゅうこく)」における治安維持法とそれを行使した日本人司法官僚にもふれてほしかった。

(岩波新書・907円)

<うちだ・ひろふみ> 神戸学院大教授。著書『治安維持法の教訓』など。

◆もう1冊

 中澤俊輔著『治安維持法』(中公新書)。政党がなぜ自らを縛ることになる「悪法」を成立させ、その後の拡大を許したのかを検証。

 

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