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【書評】

小村雪岱随筆集 小村雪岱 著

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◆「昭和の春信」美しい装い

[評者]山下裕二=明治学院大教授

 埼玉県の川越市立美術館で「生誕百三十年 小村雪岱−『雪岱調』のできるまで」という展覧会が開催されている(十一日まで)。川越生まれで、明治末期から昭和初期にかけて日本画、装丁、舞台美術などの分野で活躍した小村雪岱(一八八七〜一九四〇年)の仕事を丹念にあとづけようとした好企画である。その展覧会の初日、会場で販売されていた未知の本書を私は買い求めた。

 東京美術学校で日本画を学んだ雪岱は、卒業後、画壇の権威におもねることなく、いまでいうグラフィック・デザイナーとして身を立てていくこととなる。資生堂のパッケージデザインに携わったり、終生敬愛した泉鏡花の小説の挿絵、装丁を手がけたり、舞台美術の背景画を描いたり、その活動の幅はかなり広い。伝統的な日本美術、とくに浮世絵に対する深い理解に基づく彼のデザイン感覚は、同時代に多くのファンを獲得し、「昭和の春信」と賞賛された。しかし、戦時下に没したのが災いし、戦後はその盛名も徐々に忘れられてしまった。

 本書は、そんな雪岱が生前に遺(のこ)した随筆を丹念に蒐集(しゅうしゅう)し、厳密な書誌学的校訂を加えて刊行されたものである。編者の真田幸治氏は現役の装丁家で、雪岱の研究をライフワークとしている人である。面識はないが、私と肝胆相照らすに違いない「雪岱ファン」が、こういう美しい本を刊行してくれたことが嬉(うれ)しい。

 これまで、雪岱のエッセイをまとめた書物としては『日本橋檜物町(ひものちょう)』がよく知られている。没した直後、一九四二年に高見澤木版社から刊行されたこの本は、ようやく二〇〇六年に平凡社ライブラリーで文庫化され、以後、底本となっているが、編者は巻末の解説で、この本の編集方針に対して密(ひそ)やかな異議を申し立てる。真田氏がさらに厳密な研究を続けられて、雪岱に関する、図版を満載した包括的な研究書を刊行されることを期待したい。

(真田幸治編、幻戯書房・3780円)

<こむら・せったい> 1887〜1940年。装丁家、挿絵画家、舞台装置家。

◆もう1冊

 原田治・平田雅樹・山下裕二ほか著『意匠の天才 小村雪岱』(新潮社とんぼの本)。装丁本から日本画まで百五十一点を一挙掲載。

 

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