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【書評】

奇跡の大地 ヤア・ジャシ 著

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◆奴隷制、闘争に翻弄されて

[評者]荒このみ=東京外語大名誉教授

 十九世紀のはじめ、アメリカ植民協会が設立され、合衆国建国のころからの頭痛の種だった奴隷問題の「最終解決法」を模索していた。白人は、解放され自由民になった元奴隷と共生することはできない。それならばかれらを先祖の祖国、アフリカ大陸へ帰還させよう。自由民になった「アメリカの黒人」は植民協会の奨励によってアフリカへ渡り、一八四七年、西アフリカにリベリア共和国を出現させる。けれども元奴隷たちは無人の領域に建国したのではなかった。先住民だった部族と合衆国政府を後ろ盾としたアメリコ・ライベリアン(アメリカ系リベリア人)との対立は今日まで続いている。

 本書は約四十年前に世界的ベストセラーになったアレックス・ヘイリーの『ルーツ』にも比べられるが、ヘイリーが合衆国に住む元奴隷の子孫の道筋を直線的にたどったのに対し、本書は、西アフリカとアメリカを結ぶ奴隷貿易と、それによって宿命的に人生を規定された人びとを相互俯瞰(ふかん)的に描き出している。二十一世紀の今、部族の魂の象徴である「黒い石」は、合衆国に住むガーナ人の娘に受け継がれ、ガーナの祖母はその娘の「臍(へそ)の緒」をガーナの海に沈め、大西洋の両側を結びつける。

 セネガルのゴレ島と並んで奴隷貿易の最大の交易所だったケープ・コースト城を舞台に展開する歴史的フィクションは、アフリカの部族間の闘争と、それゆえ翻弄され奴隷にされた人びとの人生に重点が置かれて描き出される。まったく斬新な作品で、多くの出版社が争奪したのもうなずける。

 本書の著者はガーナ人を両親にもち、ガーナに生まれ、幼少のころ合衆国へ移住してきた。著者がガーナ人としてのアイデンティティーを強く持つアメリカ人であるからこそ、その原題を「ホームカミング(帰郷)」ではなく「ホームゴーイング(故郷へ行く)」という視点を持てたのだろう。

(峯村利哉訳、集英社・2808円)

<Yaa Gyasi> 1989年生まれ。本書で「2017アメリカン・ブック・アワード」受賞。

◆もう1冊

 アレックス・ヘイリー著『ルーツ』(1)(2)(3)(安岡章太郎・松田銑共訳・現代教養文庫)。自らの先祖を調べ上げた二百年にわたる物語。

 

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