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【書評】

最後の漂海民 東靖晋 著

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◆歴史の外側で生きる

[評者]瀬川拓郎=考古学者

 漂泊の人生とはどのようなものか−居場所を定めないわが身を、自由へのあこがれと零落の恐怖のなかで想像してみたことはないだろうか。

 漂泊の民はけっして遠い存在ではない。第二次大戦前後や高度成長期のころまで、箕作(みつく)りや家船(えぶね)漁民など、定住しない人びとが日本列島の各地でみられた。

 そして、長崎県西彼杵(にしそのぎ)半島の家船漁民と対馬の素潜り漁民に目を向け、歴史の外側に置かれてきたかれらの生活誌を掘り起こそうとしたのが本書だ。

 陸の孤島で零細な漁民として生きてきたかれらは、定住民の偏見と差別にさらされてきた。しかしひとたび「陸上中心史観」から離れれば、その辺境は海を通じた広大な交流の世界にほかならない。

 この「もうひとつの日本の歴史」に注目したのが民俗学者の谷川健一であり、歴史学者の網野善彦だ。その海民論を継ぐ本書では、古代から漂泊民として生きた海民の地域史が明らかにされる。

 海民が天皇や藩主の庇護(ひご)下にあった正統な「貴種」であり、呪力をもつ「まれびと」として怖れ頼られたという指摘は興味深い。それは多くの漂泊民に共通する奇妙な特徴でもあるからだ。

 海民は交易民として生き残った縄文人の末裔(まつえい)というのが私の見立てだが、その生き様を具体的にたどる本書は、壮大な歴史のロマンを掻(か)きたててやまない。

(弦書房・1944円)

<あずま・やすゆき> 民俗学研究者。著書『西海のコスモロジー』など。

◆もう1冊

 宮本常一著『海に生きる人びと』(河出文庫)。日本の海の民の移動と定着の歴史、その生活を記録した民俗誌。

 

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