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【書評】

かちがらす 幕末を読みきった男 植松三十里 著

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◆列強に向かう構想力

[評者]島内景二=電気通信大教授

 江戸時代には、ほとんどの藩が、財政危機で苦しんだ。幕末期には、圧倒的な軍事力と技術力を誇示する欧米列強が、わが国の植民地化を狙っていた。

 内憂外患に直面した人々には、藩を超えた「日本」という国家意識が芽生える。そこから、身分の上下を問わず、逸材が続出した。彼らには、正確な世界認識と、現状変革の強い意欲があった。

 植松三十里は本作で、「薩長土肥」の「肥」を率いた藩主・鍋島直正(なおまさ)の構想力に光を当てた。「肥前の妖怪」「佐賀の日和見(ひよりみ)」などと呼ばれた直正を、近代化の功績者として描く本作には、説得力がある。それほど、直正の個性と、植松の問題意識が、響き合っている。

 小説のタイトル「かちがらす」は佐賀に多く棲息(せいそく)するカササギのことで、「勝ち」に通じる。直正は、自分の心、家臣団、徳川将軍、他藩、そして欧米列強と向かい合い、納得のゆく成果を上げた。

 佐賀は、技術や医療、文化、教育などの分野で人材を輩出した。強大な軍事力を、日本文化を守ることに用いた直正の夢を、彼らは近代日本で受け継いだ。

 植松三十里は、二十一世紀の情報社会が直面する危機を踏まえ、それを打開する重要な鍵が、幕末期の佐賀にあると提言する。今年は、明治維新百五十年である。今後の日本文化のあり方について、鍋島直正の人生から学ぶことは多い。

(小学館 ・ 1890円)

<うえまつ・みどり> 作家。著書『命の版木』『繭と絆 富岡製糸場ものがたり』。

◆もう1冊 

 植松三十里著『黒鉄の志士たち』(文芸春秋)。一冊の蘭書を頼りに製鉄を行い、大砲を作ろうとした鍋島藩の物語。

 

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