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【書評】

劉暁波伝 余傑 著

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◆自由な中国へ覚悟の行動

[評者]麻生晴一郎=ルポライター

 昨年七月、獄中にあったノーベル平和賞受賞者・劉暁波(りゅうぎょうは)氏の病死は、日本でも大きく報じられ、中国政府の人権軽視ぶりがあらためて印象付けられた。だが、劉氏の人物像はあまり知られていない気がする。世界で中国の存在感が増し、中国の国情はもはや対岸の火事ではない。中国がもっと自由で民主的な社会になることを望むなら、民主化を求めた劉氏たちがもっと知られていいのではなかろうか。

 劉氏は十年前、民主化を求めるインターネットの署名活動「〇八憲章」の主宰者として逮捕された。それまで彼は一九八九年の天安門事件で亡くなった学生の名誉回復や、中国国内在住の体制外作家の支援や組織化に奔走した。本書の著者は劉氏の活動の中心的担い手として、劉氏や妻の劉霞(か)氏らと行動を共にし、二〇一二年にアメリカ亡命後も旺盛な著述活動を続けている。その著者が劉氏本人や関係者の証言、それに膨大な資料から、中国国内ではほとんど知られていない劉氏の人生や思想をまとめ上げたのが本書である。

 天安門事件以降の劉氏は、終生獄中か警察の監視下に置かれた。確かに悲惨な境遇に違いないが、劉氏が拘束されることを自覚しながら行動していたことが、本書に出てくる関係者の証言からわかる。中国共産党の一党独裁体制の弊害を訴える人は中国国内で多いものの、そうした声が一つに結集しない限り、政府に圧力を与える力にはならない。〇八憲章は民間の声の団結を目指したものであり、それには誰かが犠牲にならなくてはならなかった。

 今日の中国では、政治に口出しせねば、ある程度の自由は保障される。だが、そうした次元に安住する限り、真に自由な中国はやって来ない。著者が「心の自由のために、彼は身体の不自由という代償を支払った」と言うように、劉氏は捕まらざるを得なかったのである。劉氏の人間像を理解するためには、捕まることが予想されつつも彼を行動に駆り立てたものが何であったのかを考えてみなければなるまい。

(劉燕子ら訳、集広舎 ・ 2916円)

<よ・けつ> 1973年生まれ。作家。『香草山』で香港湯清基督教文芸賞など受賞。

◆もう1冊 

 劉暁波ほか著『「私には敵はいない」の思想』(藤原書店)。劉暁波の思想と行動、ノーベル賞受賞などを軸に日中関係を考える。

 

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