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【書評】

死体は嘘をつかない ヴィンセント・ディ・マイオ&ロン・フランセル 著

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◆小説より奇な真実を発掘

[評者]千街晶之=ミステリ評論家

 海外では「検死医マッカラム」、日本では「アンナチュラル」など、検死をモチーフにしたテレビドラマは根強い人気を誇っているけれども、あれほど劇的な出来事は現実にはまず起こらないだろう…と考えるのは大間違い。アメリカの検死医だったヴィンセント・ディ・マイオが四十五年間の現役時代に扱った数々の事件を、作家ロン・フランセルと共著の形で振り返る本書は、語弊を承知で言えば、ひたすらフィクションのように面白い。

 ニューヨーク市検死局長を務めた父を持つ、親子二代の検死医であるディ・マイオは、幾つもの有名事件に関わり、豊かな知識と経験をもとに死因を究明してきた。中には、ケネディ大統領暗殺の容疑者オズワルドとして埋葬された遺体は本人なのか…という陰謀論に基づく疑惑を解明するために、死後十八年経(た)ったオズワルドの墓から遺体を発掘したようなケースもある。

 黒人の少年が白人に射殺された事件を扱った第一章「白と黒の死」、過激派人種解放運動に関わっていたらしき二人の男性が謎の爆死を遂げる第四章「身元不明の爆死体」あたりは、ディ・マイオの検死により意外な真実が暴かれる展開がミステリ小説さながらで、自分が読んでいるのがノンフィクションであることをつい忘れそうになる。一方、幼い子供が犠牲者となる第三章「空っぽのゆりかご」や第六章「日常にひそむ怪物」などのエピソードは、やはり読んでいて辛(つら)い。

 第一章のような事件では、人種対立の観点に基づくわかりやすいストーリーに人々が飛びつきがちで、メディアや政治団体ばかりかオバマ大統領までが世論を煽(あお)る発言をした。そんな中、ディ・マイオは中立的な法医学の見地から、必ずしも大衆受けはしない、しかし確実な真実を告げる。

 ただし、その真実が法廷で受け入れられるとは限らない。ただ面白いだけではない本書の苦みを帯びた読み心地は、そこに由来している。

 (満園真木訳、東京創元社・2700円)

<Vincent Di Maio> 米国の元検死医。Ron Franscell 米国の作家・ジャーナリスト。

◆もう1冊 

 上野正彦著『死体は語る』(文春文庫)。東京都の監察医を三十余年務めた著者が、扱った変死体をもとに様々な事件についてつづる。

 

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