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【書評】

日本の初期モダニズム建築家 吉田鋼市 著

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◆戦前作品の奥行き、幅

[評者]市川紘司=建築史家

 近代建築の歴史は、最大公約数的に言えば、前近代的な様式主義から、機能合理主義や白く抽象的な国際様式への変遷としてまとめられる。本書が焦点化するのは、そうした大枠の史的変遷の中ではしばしば取りこぼされてしまう、モダンでありながら別様式の特徴も併せ持つような、端境期の建築家の取り組みだ。

 著者はこれを「初期モダニズム」と呼び、本野精吾から前川国男まで、建築家十三名について戦前(大正−昭和前期)の現存作品を題材に論じる。長く神奈川県の近代建築調査に携わった著者らしく、取り上げる建築物は必ず実見し、そうして下される評価は非常に歯切れが良い。保存問題等を切り口に「モダニズム建築」の基本的枠組みも示されており、戦前の日本建築にアプローチするための良質な入門書となっている。だが単なる入門書ではない。横浜・山下町に作品が集中的に遺(のこ)る川崎鉄三や新聞投書欄で建築の芸術性を論争した山越邦彦等、傍流と言うべき建築家の個性的な仕事にも光を当てる。戦前の日本建築の奥行きと幅の広さを改めて知ることができるはずだ。

 著者はアール・デコ建築研究の日本における第一人者。アール・デコもまた様式主義とモダニズムのあわいに位置づく芸術様式であった。モダニズムを過剰に神格化せず、その傍流や手前に着目する姿勢は、本書にも通底している。

(王国社・1944円)

<よしだ・こういち 横浜国立大名誉教授。著書『アール・デコの建築』など。>

◆もう1冊 

 S・モーコックほか著『名作モダン建築の解剖図鑑』(長田綾佳訳・エクスナレッジ)。世界の建築の傑作を紹介。

 

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