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【書評】

みんな昔はこどもだった 池内紀 著

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◆人物の萌芽 たどる旅

[評者]塩野米松=作家

 池内紀氏は名うての紀行作家である。さまざまな土地を旅し、名文を残してきた。人物評伝も多い。その蓄積してきたノウハウを惜しみなく投げ込んだのがこの本だ。

 人には歴史がある。時代がつくった背景があり、育った風土があり、家族がいた。盛んに仕事をした大人の時代のことは、著書や絵画、音源などで知ることができる。だが、彼らの子供時代のことはあまり知らない。

 著者は十五人の人物を選び、彼らの少年期の生活や出来事を調べ、後年花咲く仕事の萌芽(ほうが)を探していく。その過程が生地への旅であり、時間をさかのぼる時代紀行であり、評伝でもある。

 取り上げられたのは、明治生まれの柳田国男、藤原義江(オペラ歌手)、稲垣足穂(たるほ)、畦地(あぜち)梅太郎(版画家)、藤牧義夫(同)、林芙美子(ふみこ)、幸田文(あや)、宮本常一(つねいち)、大正生まれの深沢七郎、池波正太郎、高峰秀子、昭和生まれの渋澤龍彦(しぶさわたつひこ)、手塚治虫、向田邦子、野坂昭如(あきゆき)。

 うなずける人選でもあるが、この人は誰と思う人もいる。全て故人(一人は後に失踪)であるから直接聞きだしたわけではない。残された自伝や作品、言葉を手がかりに、像を結んでいく。旅をするときや本を読むときにはこうするのかと気付かせられることがいっぱいだ。著者は新しく人を旅するという分野をつくったらしい。

 (講談社・2106円)

 <いけうち・おさむ> ドイツ文学者・エッセイスト。著書『海山のあいだ』など。

◆もう1冊 

 岡本夏木著『幼児期』(岩波新書)。しつけ・遊び・表現・ことばの四面から、子どもが世界をどうつかむかを考察。

 

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