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【書評】

評伝 島成郎 ブントから沖縄へ、心病む人びとのなかへ 佐藤幹夫 著

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◆患者のため再開した戦い

[評者]吉田司=ノンフィクション作家

 六〇年安保闘争は、戦後日本の「天下分け目の関ケ原」のようなものだった。日米安保条約は成立したが、岸信介首相の戦前復古型ナショナリズムには反対するニューライト型平和民主主義(軽武装・重商主義)の道を歩むという国民の選択がはっきりした。

 この戦で国会に突入した全学連主流派を率い、数十万人もの反対デモの先頭に立ったのが若きニューレフト、ブント(共産主義者同盟)書記長の島成郎(しましげお)である。ブントは安保騒乱の民衆エネルギーを国内革命に転化させることを夢みたが、一敗地にまみれ、崩壊・分裂した。つまり六〇年安保とは、軍国主義の復活とマルクス主義的なプロレタリア革命への道という<二つの可能性>の消滅をも意味したのだ。当然、島も政治の表舞台から姿を消し、ブントの島は「安保の親分」という英雄伝説だけが残った。

 本書は、その島の知られざる後半生を掘り起こした評伝ノンフィクションである。それによれば一九六八年五月(あの全共闘の大学騒乱の時期)、島は沖縄・那覇空港に日本政府(厚生省)派遣の精神科医として姿を現す。彼は古巣の東大に復学し、国家御用のエリート医師に変貌していた。

 しかし島は、まだ座敷牢(ざしきろう)や監置小屋の残る沖縄の保守的な医療風土の中で精神を病む患者のために再び戦い始める。保健師たちの協力を得て島々を巡回診療し、閉鎖的な精神科病院の開放など地域医療改革の運動を続けた。

 彼は常に「民衆の側にいた」という元活動家の声を本書は伝えている。ヴ・ナロード(人民の中へ)の志を貫いたのだと。ならば、彼のマルクス離れは<偽装転向>だったのか。謎が謎を呼ぶ展開で面白い評伝だ。筆の運びも力強い。ただ全体的にブント中心「英雄史観」の色彩が濃く、高度成長期の日本経済が<安保と沖縄>に与えた影響の大きさなどについての考察が少ないのではないか、との印象は残る。

 (筑摩書房・2808円)

<さとう・みきお> フリージャーナリスト。著書『ルポ 高齢者ケア』など。

◆もう1冊 

 宮内勝典(かつすけ)著『永遠の道は曲りくねる』(河出書房新社)。島成郎をモデルにした沖縄の病院長が主要人物の一人として登場する物語。

 

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