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【書評】

日本文学全集の時代 田坂憲二 著

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◆厚い出版文化を回顧

[評者]勝又浩=文芸評論家

 本書は、昭和二十年代末から五十年代初めまで、各社からさまざまに名を変え、編成を変え、体裁を変えて刊行され続けた日本文学全集を、ほぼ網羅的に収集し、比較し、特色を挙げ、周辺のエピソードを交えながら変遷をたどったものである。その調査はときに内容見本にまで遡(さかのぼ)った変動の検分から、ときに社史の記述の間違いまで指摘するという徹底ぶりである。巻頭には主に「川端康成集」に代表させた各種造本のカラー写真があって、ああ、こういうのもあったなと、自分では所持していないものも思い出す。昭和生まれ、育ちの者には懐かしい時代の記憶が蘇(よみがえ)ってくるだろう。

 全集ともなれば当然、何十巻かの規模を持つから、出版社としても単行本とは桁の違う準備や覚悟が必要だ。そうした苦労の多い難しい出版物を幾つもの出版社が競い合って出していた事実、しかしそれがひとたびヒットすれば三十万、四十万部も売れたというのだから驚く。私は改めて日本の出版文化の層の厚さ、底の深さのようなものを認識させられた。

 だが、著者は触れていないが、こうした現象の背景には、思うに戦後の高度経済成長、それを支えた主に団塊の世代と呼ばれた人たちの夢と憧れがあったに違いない。マイホームや電化製品、そうした文化生活への夢と「日本文学全集の時代」は一体だったのだろう。

(慶応義塾大学出版会 ・ 2592円)

<たさか・けんじ> 慶応義塾大教授。著書『源氏物語の政治と人間』など。

◆もう1冊 

 河出書房新社編集部編『池澤夏樹、文学全集を編む』(河出書房新社)。個人編集した文学全集をめぐる対談など。

 

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