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【書評】

バナナのグローバル・ヒストリー ピーター・チャップマン 著

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◆搾取、買収甘くない背景

[評者]藤原辰史=農業史研究家

 甘くてねっとりとした熱帯果実の帝王バナナを、巧みな宣伝によって世界中の食卓にもたらした最初の企業ユナイテッド・フルーツが本書の主役である。一八九九年、コスタリカで「緑の法王」マイナー・キースらが起業したユナイテッド・フルーツは、中南米の鉄道敷設を担いつつ、地元企業の買収を重ね、「バナナ共和国」と呼ばれるほどの強大な権勢を振るった。

 アメリカでは非人道的だとなじられるような手法でも国の外では咎(とが)められない。サソリとタランチュラが潜む治外法権の農園で、労働組合を弾圧し、高温多湿のなか重い茎を背負い運ばせる。バナナ農園の労働は過酷だ。そのうえバナナが病気になれば農園ごと捨てて別天地を探し、莫大(ばくだい)な利益をあげた。多国籍企業の原型とも呼ばれる。

 しかも、一九二八年にはコロンビアでストライキを起こした労働者数百人を虐殺、一九五四年にはグアテマラのクーデターに直接参加、一九六一年には会社の批判をやめぬキューバのカストロを打倒するCIA(米国中央情報局)の作戦に二艘(そう)の船を提供した。アメリカの政治家やCIAと結びつき、現地の政治家たちを賄賂で買収もした。軍事力と情報力を備えた「国」として、中南米を文字通り支配したのである。

 コロンビアの作家ガルシア・マルケスの『百年の孤独』の舞台「マコンド」は、彼の故郷の近くでこの会社が経営していたバナナ農園の名前から取られた。背景にあの虐殺があると知り、私は再びマコンドのねっとりとした空気を味わいたくなって再読を始めた。

 ユナイテッド・フルーツは、度重なる台風と、遺伝的多様性のないバナナが次々とかかった病気によって大打撃を受け、一九七〇年代にユナイテッド・ブランドに買収され、のちにチキータとして再出発を遂げている。技巧を凝らした文章は読みにくいところもあるが、巻末の充実した解説が読者を助ける。明日、読者の食べるバナナの味が間違いなく変わるだろう。

(小澤卓也・立川ジェームズ訳、ミネルヴァ書房・3780円)

<ピーター・チャップマン> 英国ロンドン育ちのジャーナリスト。

◆もう1冊 

ローナ・ピアッティ=ファーネル著『バナナの歴史』(大山晶訳・原書房)

 

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