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【書評】

辺境中国 デイヴィッド・アイマー 著

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◆奥地で触れた少数民族の親切

[評者]麻生晴一郎=ルポライター

 英国のジャーナリストが二万キロに及ぶ中国の国境地帯を取材。主役は周辺国にまたがって住む少数民族だ。少数民族とはいえ人口は一億近い。

 同じ少数民族でも、置かれた立場はさまざまだ。たとえば民族紛争が頻発する新疆ウイグル自治区では、漢民族とウイグル族の間で常に緊張感が漂うが、一方でロシアとの国境地帯に暮らすオロチョン族は定住化や婚姻により中国化が進み、固有の言語を失いつつある。また、チベット自治区の国境の警備が厳しいのに対し、ミャンマーなどと接する雲南省の国境には少数民族用の抜け道が多数存在し、彼らはパスポートなしで国境を越えていく。

 全体を通じて言えるのは、どの地域でも漢民族の移民や政府による経済開発が増えて「中国化」が急速に進んでいることだ。かつてはシルクロードの風情にあふれていたカシュガルなど新疆ウイグル自治区のオアシス都市が、漢民族資本による再開発で次々と壊されていることに、著者は失望を隠さない。

 それでも著者は、少数民族の伝統が濃厚に残る場所を求めて、チベット仏教の聖地カイラスの標高五千メートル近い巡礼ルートや雲南省のジャングルなど、ひたすら奥地へと進む。多くの現地住民の親切心にも出会い、彼らを通じて世界になかなか届かない少数民族の現状や声を詳細に記している。

 中国政府は新シルクロード構想をはじめ周辺国との経済協力に力を入れており、新疆ウイグル自治区も中国製品を買いに来た周辺国の外国人で賑(にぎ)わっている。しかし、こうした場に地元のウイグル族の姿は見られず、年々漢民族資本による豪華なビルが建つのとは裏腹に、彼らの多くは生活が日増しに悪くなった印象を抱いている。

 政府や漢民族だけから中国を追う限り、このような少数民族の現状や気持ちは、なかなか見えてこない。もっと多面的な視野を持ち、中国と向き合う必要があることを痛感させられる。

(近藤隆文訳、白水社・3024円)

<デイヴィッド・アイマー> 2007〜12年『サンデー・テレグラフ』北京特派員。

◆もう1冊 

川島真著『中国のフロンティア』(岩波新書)。中国が浸透する最前線。

 

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