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【書評】

100歳の100の知恵 吉沢久子 著

写真

◆日々の生活を慈しむ幸せ

[評者]井田典子(整理収納アドバイザー)

 人生百年の時代と言われると、やれ年金では足りないだの、寝たきりの生活が続くだのと不安ばかりが先に立っていたが、本書を読み終えるころにはすっかり心が軽くなっていた。これからはもっと幸せを味わって生きていこうと年を重ねるのが楽しみにさえなってきた。幸せとは受動的なものではなく、自ら感じ取る能動的なものかもしれない。誰でも、どんな状況でも、今を大切に味わいたくなるに違いない。

 著者は、料理・整理収納・家計管理など生活全般の評論家として十五歳から百歳の現在に至るまで現役で活躍する大先輩でありながら、その文章は縁側でお茶を飲みながらおしゃべりしているようなぬくもりにあふれている。

 同じ生活を愛する主婦の一人として、私が最も共感したのは「日々の暮らしを慈しむ」という心持ち。ただ、平和な時代しか知らない私たちと違って、戦前戦中戦後の荒波をかぶりながらも、一貫して生活者の目線から「なんとか効率のいい家事の方法はないかと、おもしろがって追求して」きた姿勢には圧倒される。

 写真が一枚もないのに、ページをめくるたびにいただく百のヒントは、具体的でくっきりと脳裏に浮かぶ。それは著者が実生活で頭と身体を使って工夫を重ねた経験を惜しみなく提示しているからであり、生活とは具体的なことの集合体だからである。スマホの検索で知恵を拾った気になっても、実践しない知恵は消えていくのである。

 また、家事以外でも自分の心をもてなすためのヒントが満載。平穏な心持ちでいるために、私も「お福分け」に預かりたいと、百項目のうちどれだけ自分が実践しているかを採点してみた。できていることはまだ四十一項目だった。「イヤなことは忘れる訓練をする」とか、「人のやることに口出しをしない」など、まだまだ課題は多い。

 百歳までの道のりを明るく照らす著者には、ますます軽やかに先導していただきたい。

(中央公論新社・1404円)

生活評論家。著書『一人暮らしをたのしんで生きる』など。   

◆もう1冊 

 篠田桃紅著『一〇三歳になってわかったこと』(幻冬舎)

 

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