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【書評】

教科書にみる世界の性教育 橋本紀子・池谷壽夫・田代美江子 編著

写真

◆「寝た子を起こすな」を否定

[評者]秋山千佳(ジャーナリスト)

 東京・足立区立中学校の性教育の授業で「性交」「避妊」という語を使ったのは学習指導要領の範囲を超えているとして、都教委が区教委を指導したことが記憶に新しい。が、これは中学生には早すぎる知識だろうか。私が取材した公立中学校には、五年間で中絶した生徒も出産した生徒もいた。特に後者は成績・品行とも問題なしとされ、教師どころか保護者にも出産まで妊娠に気づかれず、望まぬ事態に至ったのだった。

 学校での性教育がタブー視される日本とは対照的に、この分野の国際的な進展ぶりがわかるのが本書だ。ヨーロッパとオーストラリア、中国、韓国の八カ国の教科書を軸に現地調査の結果を紹介していき、最後に日本の状況や提言を示す。

 教科書の写真は各国の個性が一目瞭然で楽しい。避妊法にはどの国もページを割く。誰もが被害者になりうる性暴力について、例えばオランダの教科書は「性暴力:一クラスに三人」という見出しでセクハラやリベンジポルノ、デートDVを取り上げるなど具体的だ。

 日本以外の国々が性教育のベースにしているものの一つが、ユネスコの『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』だ。現代の子どもや若者をめぐっては、望まない妊娠や性感染症のみならず、インターネットに氾濫する性情報や、性的なメッセージや写真を携帯電話に送る新種の性暴力など、各国共通の問題がある。ガイダンスはそんな現状を踏まえ、子どもたちに性と生殖の健康、さらには尊重しあう人間関係づくりといった「よき生活」を保障することを性教育の到達点とする。

 翻って日本の教科書はというと、性感染症予防にコンドームが有効と伝えながら、使用法には触れない。性教育をすると性行動が早まりかねないとする「寝た子を起こすな」論がこの国では根強いが、ユネスコの研究で否定されていると本書は示す。性教育のこれからを議論するために必携の一冊だ。

(かもがわ出版・2160円)

橋本・女子栄養大名誉教授

池谷・了徳寺大教授

田代・埼玉大教授

◆もう1冊 

秋山千佳著『ルポ保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル』(朝日新書)

 

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