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【書評】

カミサマをたずねて 津軽赤倉霊場の永助様 根深誠 著

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◆癒やす 野のカウンセラー

[評者]川村邦光(宗教・民俗学者)

 青森県の津軽平野に孤高に聳(そび)える岩木山は秀麗な山である。山頂は三つの峰に分かれており、弘前市側から見て、右が赤倉山(巌鬼山(がんきさん))、中央が岩木山、左が鳥海山と呼ばれる。岩木山の東面には岩木山神社が鎮座している。北面は赤倉と称され、堂社が山の登り口から赤倉沢に沿って並んでいる。この堂主は霊能者として信じられ、カミサマと呼ばれている。

 著者はヒマラヤも踏破した登山家であり、世界遺産の白神山地の保全運動にも携わっている。赤倉山を霊山として登拝(とはい)するカミサマや信者から話を聞くためには、お山駆けを欠かせない。著者はアクティヴにカミサマや信者のもとを駆け巡り、津軽の古代宗教を探りながら、赤倉のカミサマの世界へと推参していく。

 ここには赤倉山に飛んでいって神になった「永助様」が登場する。伝説的なカミサマであり、赤倉山神社が建てられ、「種市の赤倉様」として祀(まつ)られた。信仰は今も絶えていない。

 本書には、この「永助様」の霊験・御利益を授かった人々の話が数多く記されている。決して大げさではなく、抑えられた筆致で、人生の行路の中で、信心がどのように湧き上がり、それがどのようにして続けられていったのかについて、信者たちの心情に寄り添いながら、淡々と話を紡いでいる。

 「永助様は悩み深い、行き場を失った、どうにもならない人が最後に行き着くところです」と信者は語る。病気や失職、倒産、境界・遺産争いなど、どこにでもある出来事や難儀が次々に起こる日常の中で、信者たちは日々精進しながらカミサマへの信心を深め、平穏無事こそが誰しもの切なる願いであることを語り伝えている。

 カミサマが“野のカウンセラー”として日夜、人びとの心身の癒やしに奔走する一方で、人びとは時として愛憎や利害の諍(いさか)いにさいなまれながら、カミサマに助けられ、安らかさを見いだす。本書は、このような信心の世界を、すぐれてリアルに描き出している。

(中央公論新社・2160円)

登山家・ノンフィクション作家。著書『世界遺産 白神山地』など。

◆もう1冊

南直哉(じきさい)『恐山』(新潮新書)。霊場・恐山の禅僧が弔いの意味を問う。

 

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