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【書評】

明治維新とは何だったのか 半藤一利・出口治明 著

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◆「薩長史観」の裏側を描く

[評者]小西徳應(明治大教授)

 視点が異なれば見えるものが違う。本書はこの表現を、明治維新史を概観する中で具現化している。維新を近代日本の出発点であるとする今日の「オモテ」の歴史が「薩長史観」だとして、それと異なる「ウラ」の歴史を描こうとする取り組みがなされている。

 半藤氏には同じ視点から幕末史に関する著作が複数あるが、対談形式をとることでわかりやすくし、維新と今日の日本や世界の連関性への言及や、世界史に現れた諸事象との比較を加えて説明内容に広がりを持たせた。これらによって、歴史は多方面からアプローチできることが改めて認識できる。

 薩長史観を否定するといっても薩長の人物や実施した事跡を全否定するわけではないし、幕府側をすべて肯定するわけでもない。新国家像を構想した点で阿部正弘や大久保利通は高く評価するが、リーダーとして優柔不断な徳川慶喜の評価は高くなく、吉田松陰や山県有朋に対するそれは低い。他の多くの人物に対してもイメージだけや根拠が明示されないままの評価が多数あるが、そのことはかえって、歴史解釈の可能性が多様に存在することを示唆しているといえよう。

 なお、現在までの歴史研究の蓄積に基づけば、坂本龍馬の船中八策の真偽や、板垣退助が遭難時に語ったことなど、本書で言及されているいくつかの事柄に疑問が呈されていたり、史料が発見されていたりする事実は指摘しておきたい。

 また、せっかく「世界史から考える」というアプローチをとっているのだから、あと数十年スパンを広げて説明すると歴史理解がより深まろう。たとえば、ペリー来航時の幕府の交渉を天保の薪水(しんすい)給与令下での状況を説明するだけでなく、文化の薪水給与令がフェートン号事件等をきっかけに異国船打払(うちはらい)令に変わり、さらにアヘン戦争を契機に新給与令になったとの説明を加えるだけで、世界の動向、幕府の認識と対応が明確になり、「世界の動き中の日本」が浮かび上がる。

(祥伝社・1620円)

半藤・作家。著書『昭和史』など。出口・立命館アジア太平洋大学長。

◆もう1冊

鳥海靖著『もういちど読む山川日本近代史』(山川出版社)

 

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