東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 書評 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【書評】

近代日本の構造 同盟と格差 坂野潤治 著

写真

◆欧化主義への不満を対立軸に

[評者]成田龍一(日本女子大教授)

 歴史の描き方には、出来事の「過程」を叙述する手法と社会の「構造」を提示する方法とがある。著者はこれまでいくつもの歴史シリーズで「過程」を叙述してきたが、近年は「構造」的な分析に集中してきた。そして本書では、ついにその構えをタイトルとするに至った。外交と内政を柱に、「日英同盟」か「日中親善」か、「民力休養」か「格差是正」かという「基本対立軸の設定」によって近代日本の再考察をおこなう。

 従来、外交の主流は「欧化主義」であり、日英関係が日本外交の基軸であった。しかし、日英同盟的なものへの不満が伏流としてあり続けたことを、著者は言う。欧米列強の侵略から中国を守れ、というアジア主義的な主張で、それは日本のナショナリズムのかたちでもある。この観点から、日中戦争は中国南部を勢力圏とする英国との戦争であるとの見解が示される。

 他方、内政では、政府側の「富国強兵」「積極主義」の政策に対し、リベラル派が「政費節減」(小さな政府)によって対抗する。この対立構造は、欧米では一九三〇年前後にリベラル派が「大きな政府」を主張し姿を変えたが、日本では変化しないという。

 こうした構造分析により、浜口雄幸(おさち)の民政党内閣がひとつの焦点となる。戦前日本でもっとも平和主義的であり民主主義的であった内閣ですら「格差」や「再分配」に無関心であり、失業問題に手を付けなかった。また、一八八〇年代末期の大同団結運動が強調され、あるいは吉野作造が「社会的」な格差是正の必要(「社会政策」論)を唱えた社会民主主義者として再評価されるなど、著者は歴史事象にあらたな光を当てる。

 日中戦争期までを対象として、近代日本の軌跡を構造的に記すことにより、二〇一〇年代の現在の日本の「比較の対象になる前例」が提示される。これまでの著作と重なる叙述もあるが、それでも著者が倦(う)むことなく再解釈を提示するのは、<いま>への危機意識のためであろう。

(講談社現代新書・950円)

東京大名誉教授。著書『帝国と立憲』『<階級>の日本近代史』など。

◆もう1冊 

麻田雅文著『日露近代史−戦争と平和の百年』(講談社現代新書)

 

この記事を印刷する

PR情報