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【書評】

【中東大混迷を解く】 シーア派とスンニ派 池内恵 著

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◆単純な図式化で対立激化

[評者]宮田律(現代イスラム研究センター理事長)

 中東地域では、シーア派のイランの影響力拡大を、スンニ派の中でも特に厳格なワッハーブ派を奉ずるサウジアラビアなどアラブ諸国が警戒するようになり、これに同調してイスラエル・ネタニヤフ政権や米国のトランプ大統領がイランの「危険性」を強調するようになった。シーア派とスンニ派の二極による冷戦構造が中東地域で存在しているかのようだが、本書は、両派が本来的に対立するものなのかという問いを投げかける。

 著者は「スンニ派もシーア派も、基本的な教義を同じくし、正しい教義の根拠とする典拠のテキストを同じくしている」と指摘する。シーア派は預言者ムハンマドの娘ファーティマと、預言者の従兄弟(いとこ)でファーティマの夫のアリーの間に生まれた血統の人々を正統なイスラム共同体の最高指導者とする、いわば王朝的な考えをもつ。それ以外がスンニ派ということになり、預言者以降に実際に起きた権力継承を正当なものと認める。

 現代においてイランなどシーア派勢力が政治性をもつようになり、アラブ諸国との軋轢(あつれき)を生むようになったのは、一九七九年のイラン革命の「革命輸出」の主張に応ずる考えや動きがアラブ諸国内部で現れたことを契機とする。

 また、イラク戦争で米国がイラク社会を単純化してとらえ、サダム・フセイン元大統領の出身宗派であるスンニ派を排除したことが、イラクでの宗派対立を激化させた。そして親イランのシーア派政権がイラクで成立して以来、反米・反イスラエルのイランの影響力が地続きにシリア、レバノンにまで広がり、間近に脅威が迫ったイスラエルはいっそうイランを警戒するようになった。

 現在、注目を集めるシーア派とスンニ派の対立は、本来は教義によるものではなく、その分断が政治的、あるいは歴史的な要因に基づくものであり、また米国のイラク政策のように、図式的に両派を見ることが、かえって対立を煽(あお)りかねないことを、従来あまり触れられることのなかった視点から本書は説いている。

 (新潮選書・1080円)

 1973年生まれ。東京大准教授。著書『イスラーム国の衝撃』など。

◆もう1冊 

 飯山陽(あかり)著『イスラム教の論理』(新潮新書)。コーランを典拠に考察。

 

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