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【書評】

手塚マンガで憲法九条を読む 手塚治虫 著、小森陽一 解説

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◆戦争の狂気と平和の尊さ描く

[評者]いせひでこ(画家、絵本作家)

 戦争や闘争を通して「平和の大切さ」と「人のこころ」を描いた手塚治虫の漫画七編を収録した本が出た。

 六十年前の子どもに戻って読んだ。昔は気づかなかった物語の構成の見事さに、たちまち主人公たちと同化し、心を痛め、怒りをもてあまし、手塚の遺言のように読んだ。

 出版統制令で、漫画が本屋から消えた戦争の時代。狂気と人権蹂躙(じゅうりん)の連鎖が描かれる。『紙の砦(とりで)』は、手塚自身の体験から生まれた。漫画家になりたかった主人公は軍需工場で、隠れて漫画を描きトイレに貼る。絵を破られ、罵(ののし)られても殴られても描きつづける。紙の上には自由があり、死といのちがあり未来があった。

 『荒野の七ひき』は、近未来のとある星で。宇宙船が遭難して、地球人二人と宇宙人五ひきが共に灼熱(しゃくねつ)の砂漠を彷徨(さまよ)うことになった。

 水も食料もない。宇宙人の一ぴきは体内から水分を絞り出してみんなに飲ませた。もう一ぴきは自分の腕を切って差し出し食べろという。

 「なぜきみたちみんなはこうかんたんに身をすててほかの者につくすんだ!!」。地球人が問う。「ナゼチキュウ人ニハソノ心ガナイノカ?」。反対に問われる。

 『1985への出発(たびだち)』では、四十年後の自分に出会い失望した浮浪児が、廃墟(はいきょ)の戦後に戻っていく物語。戦争に何もかも奪われたのに、兵器の玩具を作って大儲(もう)けする大人になった自分を否定したのだ。

 本来、人は自分で考え、歩いていく生物だったはずだ。今人々は自分の手の中の電子機器だけを見ている。人と目を合わすこともなく、何かの指令を待っているかのように。ある日、この国の空気が変わっていることにも気づかず、何かの暗号ひとつで、この人たちがいっせいに同じ方向に向かって歩き出すのが怖い。

 読後、私は幾冊か憲法の本を手に取った。手塚治虫の漫画は、自分が9条で守られてきた子どもだったことに気づかせてくれた。

 憲法は美しい。特に9条。

 (子どもの未来社・1620円)

 1928〜1989年。漫画家。著作『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』など。

◆もう1冊 

 手塚治虫著『平和への祈り(手塚治虫からの伝言(メッセージ))』(童心社)

 

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