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【書評】

よみがえる戦時体制 治安体制の歴史と現在 荻野富士夫 著

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◆危うい時代 全体をつかむ

[評者]田中伸尚(ノンフィクション作家)

 教育基本法「改正」から安全保障法制を経て共謀罪法まで、「戦争ができる国」へ驀進(ばくしん)する安倍晋三政権の軍事化路線をなぜ止められないのか。戦時体制づくりに頷(うなず)く世論は分厚い。いっぽうで、危機意識を満身で受け止める市民らがいる。「くりかえさない」と誓った私たちは今、瀬戸際に立っている。

 近現代の治安体制研究の泰斗で、特高警察に惨殺されたプロレタリア作家・小林多喜二の研究者でもある著者が、危うい今を問う熱い書を届けてくれた。時代全体をつかむ多喜二の優れた構想力に導かれ、治安体制の歴史の側面から戦時体制へ向かう「からくり」に光を当てた書である。

 第一・二章では、治安体制の成立から崩壊までの歴史を追う。中で、当局が治安維持法を恣意(しい)的に運用する様、それが限界に達するや、自由の抑圧のために法改正までする凄(すさ)まじい実態が明らかにされる。特定秘密保護法や共謀罪法の明日を見るようだ。

 本書の核心は、戦後から現在までの第三〜五章である。戦後、政府はしたたかだった。GHQの治安維持法廃止を含む人権指令の履行を骨抜きにし、人的・組織的・理念的に戦前の治安体制を地続きのように復活させたのだから。戦時体制づくりは日米安保体制を利用し、自衛隊の海外「派兵」は常態化した。さらに東アジアでの軍事的緊張を煽(あお)り、安保法制へと突き進んだ。進行する戦時体制は「テロ」対策を名目にして、特定秘密保護法や治安維持法の再来である共謀罪法を生んだ。

 戦時体制と人権を踏みしだく治安体制の構築は表裏一体という著者の言に頷く。自民党の「日本国憲法改正草案」は市民運動の自由を押さえ込む緊急事態条項、国防軍や憲兵創設などをも目論(もくろ)む。

 暗澹(あんたん)たる中で著者は、今よりも闇の深かった時代に光を求め続けた多喜二の諦めない闘いこそが希望だと語る。被爆者サーロー節子さんが昨年十二月のノーベル平和賞授賞式で紹介した言葉が私の中に下りてくる。「諦めるな。頑張れ。光が見えるか。それに向かってはっていくんだ」

 (集英社新書・950円)

 小樽商科大名誉教授。著書『特高警察』『小林多喜二の手紙』など。

◆もう1冊 

山崎雅弘著『戦前回帰−「大日本病」の再発(増補版)』(朝日文庫)

 

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