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【書評】

マリア・シャラポワ自伝 金井真弓 訳

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◆勝負への激しさ 言葉にも

[評者]辛仁夏(シン イナ)(ジャーナリスト)

 「世界女子テニス界の妖精!」と呼ばれた愛らしい少女だった十六歳のマリア・シャラポワを私が初めて取材したのは、ツアー初制覇を飾った二〇〇三年のジャパンオープンだった。六歳で女子テニスのレジェンドであるナブラチロワに見いだされた天才少女は決勝戦後、「チャンピオンの素質、リードされても諦めない強さを持っていることを証明できた」と豪語、度肝を抜かれた。一体どんな環境で育つと、自分の才能に揺るぎない自信と大人びた態度にハングリー精神を持つ女の子になるのだろうかと、興味をそそられたのを覚えている。

 この自伝は「クレージーな物語」と振り返る彼女のテニス人生が率直に毒舌と本音で書かれていた。チェルノブイリ原発事故の影響を恐れて一家で移住したソチで四歳でテニスを始め、六歳で渡った米国で多感な時期に壮絶な体験をしてきたことを改めて知ることができた。そして人格を形成する上で、成長時の環境や関わった大人たちの言動がどれほど大事かも分かった。

 生き馬の目を抜くテニスビジネスの世界をステージパパの父ユーリと二人三脚で、どん底からはい上がって生き抜く中で培われた人間性が、文言から垣間見えた。気持ちの激しさは勝負に勝つために必要な「燃料みたいなもの」というのだ。特異な内容がちりばめられているだけに、全米で話題騒然になったというのは過言ではないだろう。

 対戦相手や関係者たちを実名で出し、その当事者たちを不愉快極まりない気分にさせるに違いない枕ことばや形容詞で露骨に表現した。出版後、特に痛烈に反応したのが、十七歳の新鋭だったシャラポワが初のグランドスラムタイトルに輝いて一気にスターダムにのし上がった〇四年、ウィンブルドン決勝戦で大会三連覇を阻止されたセリーナ・ウィリアムズだった。試合後のロッカールームで泣いていたと、触れてほしくない敗者の舞台裏を暴露されたからだ。そんなタブーな事柄をも歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで取り上げるなど、いかにも勝ち気なシャラポワらしい。

(文芸春秋・2268円)

1987年ロシア生まれ。女子プロテニス選手。グランドスラムで5回優勝。

◆もう1冊 

伊達公子・金子達仁著『Date of DATE伊達公子の日』(文芸春秋)

 

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