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【書評】

<モータウン>のデザイン 堀田典裕 著

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◆車と共に変わる建築、都市

[評者]市川紘司(建築史家)

 自動車。二十世紀初頭に大衆化したこの交通ツールは、建築と都市を大きく変えた。

 モダニストたちはこぞって自動車に相応(ふさわ)しい建築・都市の姿を構想している。筆頭はル・コルビュジエだ。標準化されたパーツを合理的に組み立てて作られる自動車をパルテノン神殿の建築美になぞらえて称賛し、自動車交通を主とする理想都市を計画した。

 二十世紀の建築と都市は自動車とともにあったと言えよう。本書はこのことを精緻な調査と筆致とで明らかにしている。書名にある<モータウン>とは、著者の定義によれば「自動車の存在とその交通システムによって創り出された環境」。つまり、二十世紀的な建築・都市のあり方を包摂する概念である。

 本書で具体的に検証されるのは日本の<モータウン>である。題材と研究手法はきわめて領域横断的だ。トヨタや日産などの自動車工場の立地を都市史的に論じる局面もあれば、プレファブ住宅と自動車の生産技術の関係に対する建築技術史的な検討、あるいは坂倉準三ら著名建築家が手がけた高速道路サービスエリアやガソリンスタンドに対する作品論的分析もある。

 それだけ自動車と建築・都市の結びつきは全面的だったということだ。本書の内容は、著者の前著『自動車と建築』から大幅に拡張・詳細化されたものだが、「建築/建物」といういわゆる業界的区分を無効化し、アノニマス(匿名)な建造環境の歴史として日本近現代建築史を再考する著者の姿勢を、より明快なかたちで打ち出している。

 <モータウン>は二十世紀の産物である。だが現在なおアクチュアルな環境概念と言うべきだろう。例えば現在、UAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビでは二酸化炭素排出量ゼロを目指す実験都市「マスダール・シティ」が進行中だが、そこでは電気自動車による交通システムが全面導入され、<モータウン>の未来像を体現する。二十一世紀に入り、自動車は変化の時を迎えているが、これに付随して建築と都市もまた変容を遂げていくのだ。

(名古屋大学出版会・5184円)

名古屋大大学院助教。著書『吉田初三郎の鳥瞰図(ちょうかんず)を読む』など。

◆もう1冊 

堀田典裕著『<山林都市>−黒谷了太郎の思想とその展開』(彰国社)

 

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