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【書評】

マンモスを再生せよ ベン・メズリック著

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◆ゾウ遺伝子との入れ替え計画

[評者]石浦章一(同志社大特別客員教授)

 表題を見て心が躍ったのは私だけではないだろう。先史時代に生息した大型草食動物を再生して歩き回らせることで、溶けつつある永久凍土を保存し、二酸化炭素の放出と温暖化を防ごうというロマンあふれる試みだ。はたして、三千年前に絶滅したケナガマンモスを再生できるのだろうか。

 あのSF映画『ジュラシックパーク』が製作されたのが二十五年前とは、時のたつのは速いものである。映画を見て恐竜を蘇(よみがえ)らせるのは可能と考えている人は多いと思うが、そんなに簡単なものではない。今回のマンモス再生計画も、ケナガマンモス特有の遺伝子をアジアゾウの遺伝子の相当する部分にちょっと入れ替える、という計画である。哺乳動物を全部合成するなどは夢のまた夢なのである。

 核心となる最大の問題は、ケナガマンモス特有の遺伝子とは何かという点である。データは、毛、耳、皮下脂肪、ヘモグロビンとしか書いてないのでこの点がはっきりせず、ひいき目に見ても適当に選んで入れ替えているという印象が強い。決して古生物をそのまま再生しているのではないのである。

 本書は、この計画に取り組んだハーバード大学のチャーチ教授たちの物語なのだが、韓国グループのクローン作成と競争しているところなど、実に興味深い。だが、ノンフィクション作家である著者があまりに当人たちを英雄視しすぎ、科学的事実とSFを混同するように書いているためにノンフィクションがフィクションのように読まれてしまうところが問題だ。この水準の研究者ならどの大学にも一人くらいいるし、共同研究者であるチャーチの奥さんの研究・出世を邪魔する教授のような人物もどこにでもいるので、読者には現実の研究者社会を覗(のぞ)き見る良い材料になるだろう。専門用語などにはもう少し配慮がほしかった。

 最後に、ヤクート族の収入がマンモスの牙であり、その売買が全く合法で、象牙取引に反対している自然保護論者から推奨されていることを初めて知った。なんたることだ。

 (上野元美訳、文芸春秋・2160円)

 1969年、米国生まれ。ノンフィクション作家、小説家。著書『facebook』など。

◆もう1冊

 J・ダウドナ他著『CRISPRクリスパー 究極の遺伝子編集技術の発見』(文芸春秋)

 

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