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【書評】

立原道造 故郷を建てる詩人 岡村民夫著

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◆詩と建築に漂う郷愁、憧憬

[評者]篠原資明(哲学者・詩人)

 立原道造といえば、戦前に夭折(ようせつ)した詩人でありながら、いまなお根強い人気を誇る。その一方で、東大で建築を学び、建築事務所に勤務した経験をもつ建築家でもあった。とはいえ、二十四歳で没した建築家に、これという仕事が残せるはずもない。多くの人は、そう思うだろう。本書は、そのような思い込みに再考を迫る。

 そもそも、立原にとって詩と建築とは、どのような関係にあったのか。本書は、まず立原の建築論を、建築学科への卒業論文を中心に検討する。シェリングの芸術哲学から現象学へ、その論文は哲学的には、そのような軌道を描く。ただ、文学作品からの引用もちりばめられているため、一筋縄ではいかない。注目されるのは、建築を時間の中において考えようとする姿勢だろう。郷愁と憧憬(しょうけい)というキーワードが、立原の文学と建築に通じるものとして意味をもつのも、そのためだ。

 翻ってみるなら、立原の文学もまた、建築文学といえるのではないか。本書は多くの引用をとりまぜながら、その例証を行っている。ただ、何といっても圧巻なのは、立原の建築現場への積極的な関わりを検証するところだろう。資料や証言に丹念に当たりながら、小規模住宅から大規模な病院建築まで、少数の例のうちに、建築家としての意外なほど意味深い足跡を探り出してみせるのである。

 立原の詩は、空白を用いたり、語句の位置をずらしたりすることで、読みを宙づりにする効果をもつ。その建築はといえば、風景や自然との関係を大切にすることで、質的に豊かな経験を目ざすかのようだ。

 本書の最大の功績は、従来の立原道造論と違って、詩か建築かのどちらかに偏ることなく、詩と建築の両面から立原を論じきったことだろう。意外だったのは、その両面にわたって室生犀星(むろうさいせい)が果たした役割だ。それは、家の作り方から故郷の捏造(ねつぞう)にまで及ぶ。そもそも、堀辰雄を、そして立原を軽井沢に誘ったのは、室生犀星だったのだから。

 (水声社・3780円)

 1961年生まれ。法政大教授。著書『柳田国男のスイス』など。

◆もう1冊 

 『立原道造詩集』(ハルキ文庫)。24年の生涯で残した130篇余を収録。

 

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