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【書評】

夢の猫本屋ができるまで 井上理津子著

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◆保護猫も接客、堅実ビジネス

[評者]宮晶子(ジャーナリスト)

 猫と本は縁が深い。多くの作家が猫にまつわる名著を残し、欧米ではネズミから本を守る図書館猫が活躍してきた。そしてついに、猫が「店員」を務める猫の専門書店「キャッツミャウブックス」が誕生した。この店の重要なキーワードは、保護猫である。

 本書を読んで早速、東京・世田谷区の店を訪ねた。扱うのは猫をテーマにした本。オーナー夫妻とともに接客に務めるのは五匹の保護猫たちだ。昼寝したり客にスリスリしたりと気ままに振る舞う猫たちを眺めつつ、客は本を選ぶ。売り上げの一割は保護猫団体に寄付される。猫参加型のソーシャルビジネスなのだ。

 二十五年来、飼い主のいない猫問題を取材してきたが、猫の保護活動は多くのボランティアの熱意と犠牲的精神に支えられてきた。しかしここ数年、「ボランティア精神だけでは猫は救えない」と、猫グッズ販売などで利益を出しシェルターを運営する団体が増えてきた。この書店の試みもそうした延長線上にある。

 だが出版不況のなか、書店経営にはいくつもの壁が立ちはだかる。著者は多くのユニーク書店を取材してきた業界の事情通。「本好き、猫好き、ビール好き」の一サラリーマンが、試行錯誤しながら店の形を具現化する姿を追っている。小規模店に不利な本の仕入れなど書店特有の経営課題を克服する方法や、経営収支も公開した。「夢の猫本屋」とタイトルは甘いが、猫人気に便乗した安易な商売とは違う、堅実なビジネスストーリーだ。

 その著者を驚かせたのが、開店資金をクラウドファンディングで集めたところ、短期間で目標を上回る額を達成したことだ。「いまや保護猫支援の時代」を実感する。

 今後は、書店をいかに継続し、新しいビジネスとして根付かせるかが課題になる。その可能性を感じさせるのが後半に出てくる書店イベントだ。常連客が大好きな猫本を熱く紹介しあうゲームなど、新たな本への興味が相乗効果的に高められていくようだ。

 夢の猫本屋の現実世界での挑戦は続いている。

 (協力 安村正也、ホーム社発行、集英社発売・1836円)

 1955年生まれ。タウン誌記者からフリーに。著書『葬送の仕事師たち』ほか。

◆もう1冊

東京キャットガーディアン監修『野良猫の拾い方』(大泉書店)

 

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