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【書評】

岡田啓介 山田邦紀(くにき)著

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◆東條内閣を倒した海軍大将

[評]筒井清忠(帝京大教授)

 岡田啓介は二・二六事件時の首相として知られている。青年将校達(たち)に襲撃されたのだが、生き延びた人である。しかし岡田の生涯にとって本当に重要だったのは、むしろその後であった。すなわち太平洋戦争を始めた首相で陸相・参謀総長を兼ね、近代日本史上最大の独裁者となった東條英機に対峙(たいじ)して、これを倒し、終戦に結びつけたのは岡田だったのである。

 本書はその生涯を二・二六事件(一九三六年)から説き起こし、東條内閣打倒・終戦に至るまでを描き上げている。その中で、激しい反対を抑えて一九三〇年のロンドン海軍軍縮条約をまとめたことも重要であったことがわかる。

 では、どうして岡田は困難なロンドン条約締結・東條内閣打倒をやり遂げることができたのか。終戦に関して、海軍の高木惣吉は次のように述べている。“人を動かす策略と度胸が必要だったが、強大な陸軍に対抗するにはそれに匹敵する組織を必要とした。その点、岡田には海軍があった。しかし海軍だけではだめで、重臣・宮中・政府内の一部を海軍とともにまとめあげて結集する必要があった。それを岡田はやったのだ”。組織からの視点である。

 また、ロンドン条約について、岡田自身は手記で次のように回想している。“できるだけ激しい衝突を避け、ふんわりまとめるようにした。反対派に対しても、ある時はそれに賛成しているかのようにうなずきながら、うまくやった。本当はみんな常識人で、いくら激している人にも常識的な一面があるのだから、そこを足がかりにする。極端に非正常な人からは逃げ、ずるい人にはそれに即して対応していくのだよ”

 今の日本の政治の世界にはこの種の柔軟性が欠けているように思われ、岡田の発想から学ぶべきことは多いように思われるのである。

 本書は読みやすい労作だが、例えば二・二六事件を扱う際にはより基本的文献にあたってほしかったし、引用参考文献を挙げる時には出版年を付けるようにしてもらえば、さらによかったであろう。

(現代書館・2592円)

1945年生まれ。フリーライター。著書『軍が警察に勝った日』など。

◆もう1冊 

岡田貞寛編『岡田啓介回顧録』(中公文庫)。日清・日露から終戦まで。

 

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