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【千葉】

<家族のカタチ>(3)本物で飾り伊勢エビ作り 日本の伝統守る 誇り胸に

飾り伊勢エビを手に笑顔を見せる(右から)原田裕光さん、尚佳さん、尚佳さんの母・洋美さん=鴨川市で

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 「一匹として同じ伊勢エビはないし、足やひげが欠けてしまうと商品にならない」。昨年十二月上旬、鴨川市の「いずみや鮮魚店」。原田尚佳(ひさか)さん(33)は、赤く輝き、まっすぐに伸びた「飾り伊勢エビ」を、背を下にして一尾ずつ慎重に箱に詰め込んだ。「よし、完璧」。傍らでは父親の裕光さん(62)が、作業に励む長女の姿を優しいまなざしで見つめていた。

 健康長寿などの縁起物として、関東地方の正月飾りに重用される飾り伊勢エビ。多くはプラスチックや陶器などで作られているが、いずみや鮮魚店では、本物の伊勢エビにこだわる。

 作業は、伊勢エビ漁が解禁となる毎年八月ごろから始まる。尚佳さんは、毎日のように鴨川漁港などに通い、形の良い伊勢エビを選ぶ。殻ごと釜ゆでし、汚れを竹ブラシで落とした後、まっすぐに伸びるように竹串を刺して形を固定。腐敗を防ぐためにニガリ入りの特殊な液に約一カ月漬け込むと完成だ。これらの作業は十二月上旬まで続く。

 「時間がたてば、色あせたり殻が割れたりするが、作り物では出せない存在感が魅力」と尚佳さん。その後、東京・下町のとび職人たちの手で水引などの飾りが施され、歌舞伎座や羽田空港などに納められている。

箱詰め作業を進める原田尚佳さん=鴨川市で

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 いずみや鮮魚店は、尚佳さんの祖父が一九四九年に創業。裕光さんが二代目を継ぎ、海産物を仕入れ、店頭販売を主力とする市内有数の鮮魚店を営んできたが、二〇一三年から飾り伊勢エビも手がけるようになった。

 きっかけは一二年、飾り伊勢エビ製造卸を営んでいた若松謙二さん(84)=東京都葛飾区=との出会いだった。後継者のいなかった若松さんは、廃業を考えていた。若松さんらによると、本物を使った飾り伊勢エビを手掛けていたのは当時、少なくとも首都圏では若松さんだけだった。

 「日本の伝統文化を自分の代で絶やすわけにはいかない」と若松さんは熱弁し、裕光さんは胸を打たれた。互いに行き来を重ねて技術を磨き、いずみや鮮魚店で仕入れから制作までを手がけるようになった。

 長年、国内線旅客機で客室乗務員を務めていた尚佳さんが店で働くようになったのは一四年。「祖父母や両親と二代にわたって受け継がれてきた家業を自分たちの代で絶やしてはならない」との思いを膨らませていた。

 裕光さんと若松さんの指導で尚佳さんは技を受け継ぎ、今では父母の鮮魚店を手伝う傍ら、飾り伊勢エビの制作を担当。将来は父の鮮魚店を継ぐつもりだ。「伊勢エビの目利きは誰にも負けない」と笑う。「伝統文化を守る仕事に携われることが何よりの誇り。縁起物が地域ににぎわいを呼び戻してくれることを願っている」 (山口登史)

  (今後は随時、掲載します)

 

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