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【社説】

宅配便値上げへ 便利さを求めるのなら

 宅配便最大手のヤマト運輸が全面値上げを決めたのは、利用の急増に人手が追いつかないのが理由である。だが当たり前と思っていた便利さや安さが、実は行き過ぎていることはないだろうか。

 いつでも欲しいものが注文一つで玄関先まで届く。食料や日用品、書籍にスキー板…。宅配便は今や欠かせないインフラだ。体が不自由な人にとっては文字通り生命線となっていることもあろう。

 しかし、そんな便利な日常を支えている運送や配達の現場では、長時間労働が常態化している。昼食もとれない、残業でもさばききれない。これはどこかがおかしいのではないか。

 問題は大きく二つある。一つは、なぜ人手不足がそこまで深刻化したのかだ。

 ヤマトは業界で約五割のシェアを占める。二〇一三年にインターネット通販大手のアマゾンジャパンの配送を請け負ったことで荷受量が格段に増え、人手不足に拍車がかかったといわれる。

 しかし、根っこの原因は別だろう。業界の構造問題だ。仕事の大変さに比べ賃金が低いのだ。厚生労働省調べで「運輸・郵便業」の平均賃金は二十七万七千六百円(一五年)と業種別ではほぼ最下位。これでは人は集まりにくい。

 賃金が安いのは業界の利益率が低いためだ。つまり適正な運賃を取っていないということだ。

 宅配便の九割は通販会社などの法人契約で、個人客より運賃の割引が大きい。アマゾンは送料無料を大事なサービスと位置付けており、ヤマトにとって取扱量が多い割に利益が出にくい取引相手だ。

 今回、ヤマトが二十七年ぶりに個人を含む全面値上げと、法人向けの新料金体系導入の検討に入ったのは、ある意味当然である。

 もう一つの問題は、過剰ともいえるサービスをどうするか、である。例えば、無料で応じる再配達は全体の二割を占め、コストがかさむ。だが、再配達を前提に家を留守にしたり、化粧していないからと居留守を使うケースもあるという。

 業界の厳しい労働環境を考えれば、時間帯指定サービスや再配達を有料化するなど、利便性と負担のバランスを考えるべきだろう。

 「サービスが先、利益は後」。ヤマト運輸の中興の祖で「宅急便」生みの親である故小倉昌男氏の理念だ。だが適正な利益がなければサービスは成り立たず、人は酷使される。利便を享受する側も、そのことを理解する必要がある。

 

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