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【社説】

週のはじめに考える 命を守る情報は届くか

 突然の災害に襲われた時、身を守るのに欠かせぬものは情報です。情報過多ともいわれる時代を迎えましたが、必要な情報は確実に届くでしょうか。

 東日本大震災で殉職した遠藤未希さん=当時(24)=を、私たちは忘れることができません。

 町内に百五基の屋外スピーカーを設置していた宮城県南三陸町は地震発生の直後から、防災行政無線で注意を呼び掛ける放送を始めました。大津波警報が出ると「六メートルの津波が来ます」「高台に避難してください」…。

◆防災無線が示した力

 こうして、役場ごと津波にのみ込まれるまで「大津波が見えています…」と伝え続けたのが町の職員だった遠藤さんでした。

 海から離れた場所にいた住民には「ここまでは来ない」という意識が強かったといわれます。何人もの住民が「大津波が…」という彼女の声で切迫した状況を察し、難を逃れたのです。

 地震ばかりではありません。

 新潟県糸魚川市で昨年十二月に発生した火災は、強風による飛び火で広範囲に広がり、百四十七棟もの建物を焼損する大火となりました。それでも死者を出すことなく鎮火できたのは、防災行政無線で避難勧告などの情報を刻々と確実に伝えられたからだ、とも指摘されています。

 情報通信技術(ICT)の発展は目覚ましく、ひとたび非常事態が起きれば、さまざまなメディアから一斉に緊急情報が届けられるようになりました。情報伝達の経路が増えれば、それだけ緊急情報に接するチャンスが増えます。

 心強いことではありますが、その一方で、どこからどんな情報が届くのか、うっかりしていると分からなくなってしまいそうでもあります。

◆日進月歩のICT

 テレビやラジオの緊急警報放送は一九八五年に始まりました。津波警報や東海地震の警戒宣言が発令された場合、受信機のスイッチを自動的に入れ、警報を伝える。試験信号放送も、例えばNHKなら毎月一日の正午前に行われていますが、残念ながら、対応する受信機の普及が進んでいません。

 一般になじみ深いのは、二〇〇七年に運用が始まった緊急地震速報でしょう。大きな揺れが到達する前に警報を発するシステムで、視聴中のテレビや携帯電話の緊急速報メールで直ちに情報が届きます。専用の受信設備とインターホンを使って各戸に警報を伝えるマンションも増えています。

 たとえ数秒でも揺れに備える時間ができれば身を守るチャンスが大きく広がりますが、震源の近い直下型地震の場合は威力を発揮できません。

 市町村の防災行政無線(同報無線)は、総務省の一五年末の調査では、全市町村の八割近くで整備されていました。市町村から緊急情報が配信された場合、スイッチが切ってあっても自動的に起動して放送が流れる防災ラジオを導入している自治体もあります。

 国の緊急情報を市町村の防災行政無線などに伝える全国瞬時警報システム(Jアラート)に続き、市町村のきめ細かな情報を放送・通信メディアを介して住民に伝える災害情報共有システム(Lアラート)の整備も進んでいます。

 市町村が入力した情報を全国のさまざまなメディアに一斉配信できる仕組みですが、職員の少ない自治体では、災害対応と情報発信の同時進行は難しそうです。例えば昨年の熊本地震で、町の庁舎が被災した益城町では情報の入力が後手に回ってしまいました。

 現在、スマートフォンを持ち歩いていれば、実に多彩な緊急情報を入手することができます。裏返せば、デジタル通信機器が使えなければ情報が十分に得られない恐れがあるわけです。その情報格差、デジタルディバイドの解消が急務です。あるいは、スマホを持っていても、電池がなくなれば一気に情報弱者です。

 南海トラフ地震を見すえ、総務省東海総合通信局が昨年、愛知、岐阜、三重、静岡県の計百六十市町村を対象に情報伝達手段の整備状況を調べました。避難所にスマホなどの充電器を配備している自治体は7%、公衆無線LAN(Wi−Fi)の整備は12%にとどまっていました。宝の持ち腐れを招かないでしょうか。だれでも確実に使える通話専用の特設公衆電話の準備も28%と低調でした。

◆だれもが使える手段を

 ICTの進歩は、さらにきめ細かく、親切な緊急情報の提供につながるはずです。その可能性は大きく育てなくてはなりませんが、仕組みは複雑になる一方です。

 だからこそ、だれもが確実に使える、例えば音声通話の電話やラジオなど、分かりやすい情報伝達手段の整備をおろそかにしてほしくはありません。

 

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