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【社説】

韓国大統領に文在寅氏 「核危機」回避が使命だ

 韓国大統領選で野党の文在寅候補が当選確実になった。北朝鮮の核、ミサイル開発による東アジア危機の回避が、内外とも最も重要な使命になる。

 文氏が率いる次期政権で注目すべき課題は三点になろう。

 まず、朴槿恵前大統領の罷免、逮捕によって混乱する韓国政治を早く安定させること。

 併せて、北朝鮮の暴走に歯止めをかけるという差し迫った課題がある。既に抑止に動きだした米国さらに中国との政策調整を進めなくてはならない。そして、冷えこんでいる日韓関係の立て直しだ。

◆多様な意見に耳傾けよ

 朴前大統領は財閥企業との贈収賄、友人を国政に関与させた職権乱用などで弾劾、罷免された。

 文氏はかつて人権派弁護士として活動し、二〇〇〇年代には盧武鉉政権で大統領秘書室長など要職を務めた。公正で透明性が高い政治の実現を訴え、金銭面でも清潔だと評価される文氏の勝利は、不正との決別を願う韓国社会の熱気を反映したものだと言えよう。

 韓国は経済成長が鈍化する一方で、少子高齢化が急速に進む。大企業に富が集中し、競争力を持つ中小企業が育たない。若者は就職難で、結婚も諦めるしかないという不安が広がる。

 文氏が属する「共に民主党」は学生運動や市民団体出身者が多くリベラル左派とされ、財閥中心の経済構造を改めて社会格差をなくすと約束する。だが、現実の韓国社会は保革両極論では割り切れないほど複雑化している。文政権には保守との理念対立を和らげ、社会の多様な意見、価値観に耳を傾ける姿勢が必要だ。

 与党になる共に民主党は国会の議席が単独過半数に届かず、法案可決では中道党派の協力が欠かせないという事情もある。

◆米中と政策調整急げ

 北朝鮮による「核危機」は深刻な段階に入った。米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発など脅威の高まりと、対応を誤れば朝鮮半島が戦場になりかねないという両面で考えるべきだ。

 もし米国がICBM完成を阻止しようと先制攻撃をし、北朝鮮が反撃すれば、標的はまず韓国になるだろう。日本も含め東アジア全体に拡大する恐れも否定できない。韓国の次期政権は北朝鮮の核、ミサイル開発を止めるだけでなく、軍事衝突を防ぐため総力を挙げなくてはならない。

 北朝鮮のミサイルを迎撃するため、米軍が韓国南部に配備した高高度防衛ミサイル(THAAD)システムも波乱含みだ。付属のレーダーの範囲を拡大すれば中国本土の軍事情報が流出すると、中国は配備に強く反対している。文政権は米中の板挟みで苦悩することになろう。

 一方で、トランプ米政権は北朝鮮に強い軍事的圧力をかけ、中国は石炭輸入削減、さらに停止を公表するなど経済制裁を強めている。米中両国は今回初めて、北朝鮮の核とミサイルを抑止するために連携を強めたと言える。

 韓国はむしろ好機と捉え、抑止に動く米中双方と連携すべきだ。文氏は早い時期に米中の両首脳と意見交換をし、政策調整を進める必要がある。

 文氏はかつて盧政権の対北融和政策に関わった経緯もあり、南北対話の再開に積極的だ。韓国民にも、北朝鮮が対話に応じれば衝突の危険性が減るのではないかとの期待感もある。

 しかし、北朝鮮は核開発を放棄しないと言い張り、各国が制裁で足並みをそろえる以上、対話再開には国際社会の理解を十分に取り付ける必要がある。

 日韓関係も楽観はできない。文氏と側近、支持組織は歴史認識を重視し、日本側は「反日」姿勢が強まるのではないかと懸念する。最大の焦点は旧日本軍の慰安婦問題だろう。

 日韓は一五年末、日本政府が十億円を拠出し、韓国が財団をつくって元慰安婦を救済する措置で合意した。文氏は合意には被害者の要望が反映されておらず、国民の七〜八割が反対しているとして、再交渉を求めている。

◆慰安婦合意の尊重を

 それでも、元慰安婦の平均年齢が九十歳近いことを考えれば、日韓合意は現実的で的確な判断だった。次期政権も尊重するよう強く求めたい。歴史問題で両国関係が冷えこんだままでは、北朝鮮の軍拡を抑える日米韓の連携にもマイナスだ。

 一五年末時点の生存者四十六人のうち七割以上に当たる三十四人が、日本からの拠出金を受け取っている。本人や家族がどのような思いで日韓合意による措置に応じたのか、韓国政府はまず明らかにしてほしい。支援団体の主張や世論調査の結果は伝えられるが、当事者の本当の考えがはっきりわからないからだ。

 

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