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【社説】

憲法9条改正論 平和国家の道を外すな

 集団的自衛権の行使を容認する閣議決定からあすで三年。憲法違反との指摘は放置され、九条改憲論が先行する。「平和国家」の道を外れてはならない。

 あの日を境に、自衛隊の本質が根本から変わってしまった。二〇一四年七月一日。集団的自衛権は行使できない、という政府の憲法解釈の変更に、安倍晋三首相が踏み切った日である。

 集団的自衛権は密接な関係にある外国への武力攻撃を、自らは直接攻撃されていないにもかかわらず、実力で阻止する権利を指す。

 安倍内閣までの歴代内閣は日本は国際法上、集団的自衛権を有するが、行使は憲法九条の下で許容される自衛権の範囲を超え、許されないとの解釈を堅持してきた。

◆反省の上に戦争放棄

 なぜか。それは現行憲法が、国内外に多大な犠牲を強いた先の戦争を反省し、行使できる自衛権の範囲を自ら厳しく制限してきたからにほかならない。「平和国家」として生きる宣言でもある。

 憲法九条はこう定める。

 「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久に放棄する」

 「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」

 一項「戦争放棄」と二項「戦力不保持」の下で自衛隊が創設されたが、「日本に対する急迫不正の侵害がある」「排除するために他の適当な手段がない」「必要最小限度の実力行使にとどまる」という三要件を満たさなければ、自衛権は行使できないとされた。

 自衛隊を、日本を防衛するための必要最小限度の実力組織と位置付け、他国同士の戦争には加わらず、海外では武力の行使をしない「専守防衛」政策である。

◆集団的自衛権を容認

 ところが三年前の閣議決定でこの三要件が改められ、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合には、日本に直接攻撃がなくても、他国同士の戦争に加わり、海外で武力の行使ができる、となった。

 自衛隊は個別的自衛権しか行使できない組織から、憲法違反とされてきた「集団的自衛権の行使」ができる組織へと変貌したのだ。

 この閣議決定を基に、自衛隊が海外で武力の行使ができるよう、安倍政権は一五年九月、憲法学者ら多くの専門家が憲法違反と指摘したにもかかわらず、安全保障関連法の成立を強行した。

 そして、首相が在任中の実現に意欲を示す憲法改正である。

 今年五月三日の改憲派集会に寄せたビデオメッセージでは、現行九条の一、二項を残しつつ、自衛隊の存在を明記するなど、改憲の具体案に踏み込んだ。

 国防軍創設を目指してきた首相にとっては軌道修正だが、その狙いは、自衛隊を憲法に位置付け、合憲か違憲かという議論に終止符を打つことだという。

 しかし、このまま自衛隊の存在を明記すれば、憲法違反とされてきた「集団的自衛権の行使」が許される存在として、自衛隊を追認することになる。それは専守防衛に徹してきた、戦後日本が歩んできた「平和国家」の道から外れることにならないか。

 自衛隊は何をすべきで、何をすべきでないのか。本質的な議論を経て国民的合意に至ったのならまだしも、それを欠いたまま自衛隊の存在だけを明記しても、自衛隊による集団的自衛権の行使が合憲か違憲か、国論を二分した議論は続くだろう。

 そもそも歴代内閣は、専守防衛に徹する自衛隊は戦力には該当せず、九条の下でも合憲と位置付けてきた。憲法にあえて書き込む必要があるのだろうか。

 自衛隊の存在を憲法に明記しないことが、活動の歯止めとなってきたこともまた現実である。

 首相や閣僚らには、憲法を尊重し、擁護する義務が課せられている。国民が憲法を通じて権力を律する「立憲主義」である。

◆軍事力重視の延長に

 その首相が進んで改憲を主導する。いくら自民党総裁としての発言だと強弁しても、憲法に抵触する行為と指摘されて当然だ。

 ましてやそれが、自らと考えを異にする自衛隊違憲論者の意見を封じるためだとしたら、憲法の私物化だとの批判は免れない。

 九条改正は、集団的自衛権の行使容認、安保関連法成立と続く、首相主導の「軍事力重視国家」造りの延長線上にある。

 九条を改正することで深刻な影響が出るのではないか。国際的信頼を得るに至った平和国家の道を外れ、国を再び誤らせることはないのか。自衛隊の存在を明記するだけ、という言に惑わされず、その本質的な意味を問い続けたい。

 

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