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【社説】

9・11からアフガンへ 危ういグレート・ゲーム

 米中枢同時テロから十一日で十六年。アフガニスタンは今では米国とロシアが覇を競う舞台に変わった。新たな「グレート・ゲーム」の始まりである。

 トランプ米大統領は八月、新しいアフガン戦略を発表し「性急な軍撤退は力の空白を生む」と関与継続を表明した。アフガンには約一万一千人の米軍を主体とする国際部隊約一万五千人が駐留するが、米メディアによると、ここに米国は四千人を増派する。

◆治安悪化で米国が増派

 理由は治安悪化だ。二〇一四年末に国際部隊が戦闘任務を終えてアフガン政府軍の後方支援に回ってから深刻化。国連によると昨年の民間人の死傷者は一万一千人以上に達し、前年比で3%増えた。

 政府軍は独り立ちするには力不足だ。四月には北部マザリシャリフ近郊の陸軍基地が反政府勢力タリバンの攻撃を受け百四十人以上が死亡した。アフガン政府の支配が及ぶのは六割弱でしかない。

 中枢同時テロの報復のためアフガンに進攻した米軍は、最盛期には十万人が駐留した。オバマ前政権はイラク、アフガンの二つの戦争の終結を公約に掲げ、イラクでは一一年末にいったんは撤退、アフガンでも駐留規模を縮小した。

 ところがその間隙(かんげき)を縫ってイラクでは過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭を許し、アフガンではタリバンが息を吹き返した。慌てたオバマ前政権はアフガンからの一六年末完全撤退計画を見直した。

 アフガン戦争は米国にとってベトナム戦争を抜いて最も長い戦争である。トランプ氏が「国民は勝利なき戦争に疲れ果てている」と指摘したように泥沼化。これまでの戦費は一兆ドル(約百十兆円)を超えるともいわれる。

 増派は「和平に向けた政治プロセスをつくり出す」(トランプ氏)のが狙いだが、タリバンとの和平協議は糸口すらつかめない。

◆ロシアがタリバン支援

 「ロシアが国際法や他国の主権を侵した場合は対決せざるを得ない。例えば、アフガン政府の了解なく武器が持ち込まれた場合だ」

 陸軍基地襲撃事件直後に首都カブールを訪問したマティス米国防長官はロシアにこう警告した。ロシアはイランとともにタリバン支援に乗り出している。ロシアは否定するが、米国は武器も供与しているとみて懸念を深めている。

 ロシアがタリバンを支援するのは、アフガンでもISの脅威が増したからだ。この三月にはカブールの軍病院を襲い、三十人以上を殺害した。ロシアはアフガンと隣接する旧ソ連・中央アジア地域を自分の勢力圏と見なす。そこにISが浸透しないか神経をとがらせている。

 アフガンでは一九八九年のソ連軍撤退後、その後ろ盾を失ったナジブラ政権がほどなくして崩壊し内戦状態に陥った。九〇年代後半タリバンが全土をほぼ掌握した。

 ロシアは反タリバン勢力の「北部同盟」を支援した。プーチン大統領は米国のアフガン進攻を支持し、軍の猛反対を押し切って米軍の中央アジア駐留を容認した。

 そんな宿敵同士のロシアとタリバンが、ISという新しい敵の出現で手を握った。ただし、タリバンが再び実権を握るようなことになれば、中央アジアに触手を伸ばさないとも限らない。

 米国はソ連のアフガン支配に対抗してイスラムゲリラを後押しした。そこから派生したのが、中枢同時テロを実行した国際テロ組織アルカイダである。ロシアは米国の轍(てつ)を踏みかねない。

 十九世紀末から二十世紀初頭、南下政策を進めた帝政ロシアが中央アジアを支配下に置いたことに、インドを植民地化した大英帝国は強い危機感を抱いた。両国はアフガンを舞台に覇権争いを繰り広げ、それは「グレート・ゲーム」と呼ばれた。

 今は主役が米ロに代わって新たなゲームが展開する。ロシアは和平協議を主導する姿勢も見せる。四月にはアフガン、中国、パキスタンなど十カ国の政府関係者を招いた会議をモスクワで開いた。

◆印パ関係にも余波が

 米ロの角逐に加えて、中国、イラン、パキスタン、インドという周辺国の思惑も絡み合い、南西アジア情勢は複雑化しそうだ。

 タリバンを支援しているとされるパキスタンに対し、トランプ氏は「テロ組織に避難所を提供することはもう許されない」と圧力をかける。

 これがパキスタンの中国傾斜を強める引き金になると指摘されている。そうなればパキスタンとインドという核保有国同士のあつれきが増すだろう。インドは中国の南西アジア進出を警戒している。

 こうした争いに巻き込まれ犠牲になるのはいつも、罪のない民衆である。出口を見つける責任は無論、干渉国にある。

 

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