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【社説】

週のはじめに考える やわらかな“安全保障”

 こんなご時世に何ですが、いや、こんなご時世だからこそ、同盟とかミサイル防衛とか、そういう難しい話とは別の“安全保障”について考えてみます。

 “安全保障”としたのは、ただ安全保障と書くには、いささか悠長、少々迂遠(うえん)な話だからです。ひとことで言えば、それは、日本や日本人のファン、理解者、友人を、よその国に増やすこと。それには日本人が外国に行くこと、外国の人に日本に来てもらうのが一番の近道です。例えば−。

◆1位から9位に下降

 今月十二日、一人の若い女性が留学のため英国へと飛び立ったことがニュースになりました。秋篠宮家の次女で国際基督教大(ICU)三年の佳子さま(22)です。リーズ大で一年近く学ばれるとの由。見聞を広めると同時に、英国や英国へ来ているほかの国の人とも交流し、きっと知己を増やされることでしょう。

 欧米などの大学は九月から新学期が主流ですから、この時期、きっと他にも多くの日本の若者が留学のため海を渡ったはずです。

 しかし、全体的な傾向を見れば、日本から海外に出る留学生の数は減っています。

 日本学生支援機構が経済協力開発機構(OECD)の統計などに基づいて明らかにしている数字によれば、日本人の海外留学者数は二〇〇四年の約八万三千人をピークに低落傾向にあり、一四年は五万三千人ほどにとどまっています。

 最大の留学先である米国だけをみても、傾向は同じ。米国の国際教育研究機関のデータをまとめた日米教育委員会のサイトによれば、日本人留学生の数は一九九四〜九七年度には国別で一位でしたが、徐々に順位を下げ、二〇一五年度は九位に。中国、インドの一位、二位、韓国の四位や台湾の七位と比べると、やはり、少し寂しい実績と言うほかありません。

◆外国に友人が増えれば

 政府もあの手この手で留学生増を図っているようです。主として、日本経済の国際競争力や科学技術力への影響が懸念されているようですが、単純に、日本人が外国に友人や理解者をつくるチャンスが減っていることを残念に思います。実際、学生支援機構による海外留学経験者の追跡調査(一一年度)によれば、留学で得たものとして三割近い人が「友人」をあげているのですから。

 外国に日本の友人を増やす、という点では、関連して気になることもあります。海外で日本語を学ぶ人の数です。国際交流基金によると、一五年度調査で初めて減少傾向を示したそうですから、これにも対策が必要でしょう。

 さて、次は出る方ではなく、迎える方に目を向けてみますが、こちらは順風です。同機構によれば、海外から日本への留学生はほぼ右肩上がりに増え続け、昨年は約二十四万人。加えて、旅行で日本を訪れる人の数も増えています。

 そして、日本を知ってもらうことの効果を示すのが、言論NPOが昨年、日本と中国で行った世論調査結果です。訪日経験がない中国人で日本に「良い」印象を持つ人は16%にすぎないのに、訪日経験のある人になると、実に58・8%に跳ね上がるのです。

 不安や恐怖は、対象がよく分からないから生じる面があります。洞穴は奥が暗くて見えないから怖いのでしょう。多くの国の多くの人に日本を知ってもらい、日本人の友達になってもらう。一つ一つは小さな出会いでも、それが不断に増えていけば、ひいては日本や日本人に対する好意を醸成し、逆に無用な誤解、敵意を避けることにつながる気がします。であれば、それも“安全保障”かと。下手な地口ですが、ピース(かけら)の集まりがピース(平和)なのかもしれません。

 話はここで再び、出ていく方に戻ります。海外で日本を知ってもらうと言えば、アニメやMANGA、KAWAII文化などの力も大ですが、こうした若者文化以外にも有望なソフトはあるはず。そうですね、例えば−。

◆RAKUGOを輸出する

 桂かい枝さんは、上方落語の実力派ですが、英語による口演も得意です。「TIME NOODLE」は、そう、「時うどん」(江戸落語の「時そば」)。こういう英語落語の演目は三十席を数え、一九九八年の米国を皮切りに二十カ国以上、三百回を超える公演実績があるそうです。以前、テレビでその一端を拝見しましたが、大変な受けようでした。あれだけ笑わせてくれる人の国を嫌いになるはずがありません。

 政府にもとにかく、日本と日本人の友人、ファンを増やす施策に注力してほしいものです。ただ経済のためでなく、やわらかな“安全保障”として。まずRAKUGOの本格輸出はどうでしょう?

 

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