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【社説】

パラダイス文書 税逃れは社会を壊す

 「パラダイス文書」は重要なことを要請している。富める者が税を逃れ続けるなら、富の再分配は滞り、社会また国家の健全性を壊してしまうからだ。

 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)による「パラダイス文書」の功績は、タックスヘイブン(租税回避地)が最大の売りとする「秘匿性」を突き崩したことにある。タックスヘイブンを利用する富裕層らに秘密が漏えいするリスクや恐怖心を植え付けたからだ。まだ氷山の一角にすぎないが、「パナマ文書」に始まった秘密の暴露が続けば、税逃れに対する強力な抑止力になるはずだ。

◆消費税1・85%相当

 関連資料を入手した欧州の有力紙、南ドイツ新聞はパラダイス文書の特徴を次のように説明する。

 昨年報じたパナマ文書より資料は格段に多く、千三百四十万件に上る。政治家や有名スターら個人だけでなく、アップルやナイキなど多国籍企業が多く含まれる−。

 日本の企業や個人名は千を超えていた。

 タックスヘイブンは世界で約六十カ所といわれる。ICIJによると、タックスヘイブンを使った税逃れの額は、年間五十八兆円に上るとみている。日本だけでも五兆円で、これを消費税にすれば1・85%分と、再来年十月からの増税にほぼ相当する。

 南ドイツ新聞のコラムニストは「人は、死と税務署という二つから逃れられないが、死後、パラダイス(天国)に行けば、もう税を取られず安堵(あんど)を得ると一般人は考える。対して大物たちはすでに生前、税から自由な彼岸にいるのだ」と皮肉たっぷりに批判した。

 ICIJは文書の分析と取材に一年かけ、税逃れ策だけでなく違法まがいの裏取引や錬金術を突き止めた。秘匿性の高さゆえに「不正の温床」といえるものだった。

◆英国王室も御用達

 特に注目されたのは、米トランプ政権のロス商務長官がプーチン・ロ大統領に近い人物が経営する企業との取引で約七十八億円の資金を得ていた新たなロシア疑惑。

 エリザベス英女王の私有財産がタックスヘイブンの投資ファンドで利益を上げていた王室の利殖。

 ナイキはオランダの税務当局と合意し、利益をタックスヘイブンに十年間も蓄積。ナイキ、アップルなどの多国籍企業が巨万の富を蓄積できたのはタックスヘイブンの手助けあってのことだった。

 当事者たちは一様に「合法的な方法にのっとっている」とうそぶいている。

 税金の軽い国などで所得を「隠す」のは脱税だが、タックスヘイブンを通じた租税回避は違法ではない。それが違法でないことが問題なのであり、さらにいえば違法でなければ許されるのかという倫理や公平公正の問題がある。

 納税を勧める立場の政治リーダーや国家の規範となる王室、世界中で膨大な富を得る多国籍企業−これらの蓄財が国民の怒りや失望を買うのは当然だが、背後にも黙して儲(もう)ける無数の富裕層がいる。

 税には本来、所得再分配という格差を是正するための重要な機能がある。より良い社会をつくるために考え出された知恵だ。だが、富裕層が税を逃れては再分配は機能せず、格差は拡大する。「違法でない」からといって見過ごすことはできないのである。

 パラダイス文書を受け、欧州連合(EU)はタックスヘイブンのブラックリストづくりを加速させた。経済協力開発機構(OECD)は、税の低い地域に利益を移すのを認めず、経済活動があった場所で正当な額の税金を払うよう新ルールで対抗する。

 だが、カギを握るのは何といっても英国である。タックスヘイブンは大英帝国時代、英王家が巨額財産を王領の島に移したのが起源だ。時代は下り、一九七〇年代以降、日本などの台頭で製造業が衰退すると、英国は金融立国に活路を見いだす。そこで発展したのがタックスヘイブンなのである。

 世界中に植民地を展開した英国は、カリブ海や大西洋などに十四の海外領土、本土周辺には三つの王領の島を保有する。その領土で税を減免し、高い秘匿性を武器にして世界中から富裕層の資産や投機資金を集めた。そのネットワークをロンドンの金融街と結んだ。

 だからタックスヘイブンという自国の基幹産業を支えるシステムの規制には後ろ向きだったのだ。

◆市民も声を上げよう

 数年前、英国で租税回避していたスターバックスは世論の反発を受けて姿勢を改めた。企業にとって消費者の離反ほど怖いものはないのである。

 今回明らかになったナイキやアップルなどに対し、タックスヘイブンの利用を止めるよう声を上げ、改めなければ不買も辞さない。そういった市民の行動も、根深い問題の解消に一助となる。

 

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