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【社説】

勤労感謝の日に考える 人生百年、定年は何歳?

 寿命が延び、生きる時間が増えています。とりわけ会社員には、いつまで、どんな仕事を続けるか。働く人にも企業にも定年延長は考えるべき課題です。

 長谷川町子さんの漫画「サザエさん」に登場する波平さん、年齢をご存じですか。

 五十四歳です。

 もっと年配に見えます。実はもともとの舞台となった戦後まもなくの時期は五十五歳が雇用者の定年年齢、平均寿命も男性で六十歳ぐらいでした。今は男女とも八十歳を超えています。「人生百年」を迎えつつある。そんな時代です。

 現在の定年制度はどうなっているでしょうか。法律では六十歳以上と定められている。多くの職場では六十歳ではないでしょうか。

 さらに希望者には六十五歳までの雇用を企業に義務付けています。企業の八割が退職した後に再雇用する継続雇用制度を導入、定年の延長や廃止はわずかです。

◆米英では定年を廃止

 働く期間の延長は世界の潮流のようです。フランスは既に定年は七十歳、公務員も六十七歳まで引き上げます。スウェーデンは六十七歳にしました。ドイツも年金支給年齢の引き上げに合わせるようです。

 米国は一九八六年に、英国は二〇一一年に定年を廃止しました。理由は明快、年齢差別の禁止です。やる気や能力があるのに年齢を理由に働く機会を奪うのはそもそもおかしいという。定年があると思っている身には新鮮に聞こえます。

 定年のない働き方とはどんなものでしょう。米国は自助の社会で働くしかないことも背景にありますが、ニッセイ基礎研究所の金明中・准主任研究員は「いつまでも働けるので五十歳で会社を辞め勉強して医師や弁護士になる人もいます。こうした職業は年配者がやると思われている面もある」と話します。引退は自分で決める。

 日本のシニアはどうでしょうか。内閣府の高齢社会白書によると、六十歳以上の28・9%が「働けるうちはいつまでも」と考えています。「六十五歳くらいまで」「七十歳くらいまで」などを合わせると約七割が働く気満々です。

 しかし、現実はというとその能力を生かしやりがいを持って働けているとは言い難い。継続雇用制度は、退職後に嘱託など非正社員として雇用する。多くは補助的な仕事で職責は低下、働きぶりに関係なく賃金は正社員時より下がります。雇用の保障が目的で「福祉的雇用」と言われたりします。それまでの実績を軽視されたような複雑な気持ちにもなります。

◆管理職だけじゃない

 定年延長は正社員として働き続けることです。能力や成果に基づいて賃金をもらい、企業への貢献が求められます。年金をもらう側ではなく、支える側にもなる。

 二つ課題があります。

 まず賃金です。働く期間が長くなる分、人件費がかさみます。企業の負担が増える。四十代くらいから賃金の上昇を抑えるのか。労使で合意することが必要ですが、簡単ではない。

 定年のなかった韓国では一三年に六十歳以上と定めました。それまでは五十代で辞める人が多かった。定年導入で働く期間は延びたが賃金が減ることになり労働組合から反発がでているそうです。

 二つ目はシニアのやる気と技能をどう維持するかです。これは企業だけでなく実は、働く本人の意識変革が必要です。欧州では職種ごとに仕事に就くので専門的な仕事を長く担えます。

 一方、多くの日本の会社員はさまざまな仕事をやります。五十代になり管理職になれなかったり、定年前に管理職から外れると途端にやる仕事が限られます。やる気も下がる。このまま定年延長されてもつらいばかりだし、企業も経営成果に結び付きにくくなる。

 管理職以外にやる気を持って取り組める仕事、例えば専門職などを選べる道が必要になります。

 一般に働く人には、希望する仕事を自分で選び、仕事を通じて幸福を追求する権利がある。これを「キャリア権」と呼ぶ考え方があります。すべての人が意欲的に働き社会を支える。その実現に必要な理念ではないでしょうか。

◆「キャリア権」の時代へ

 この考えの普及活動をするNPO法人「キャリア権推進ネットワーク」の吉田修広報・事業部長は「キャリアを選び取ろうとする人は企業にも貢献できる。何をやるのか企業と話し合えば能力を生かせる職場が見つかり、企業の人事権と対立しない」と指摘します。

 もちろんシニアにも強みはあります。経験や技能、人脈は年の功がモノを言う。若い同僚のサポートをすることで弱点を補い合える。実は、長寿化は高齢期ばかりを延ばしました。シニアの働き方を見直す時機が来ています。

 

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